火災対策というと、たばこの不始末やコンロ、電気設備の異常を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、建物の所有者や管理者が見落とせない原因の一つが放火です。火を使わない廊下やごみ置き場でも、燃えやすい物が置かれ、第三者が近づける状態であれば、火災の起点になり得ます。
放火を完全に防ぐ方法はありません。それでも、建物を「火をつけやすい場所」にしないための対策はできます。今回は、放火火災の実態、マンション・ビルでできる対策、防火管理者の外部委託サービスにおける巡回点検の役割を考えます。
「放火は火災原因として多い」は本当か
総務省消防庁が公表した2025年(令和7年)の火災の概数によると、全国の総出火件数は40,783件でした。このうち出火原因が「放火」とされたものは2,392件で、全体の5.9%。「放火の疑い」1,649件を加えると4,041件となり、全体の9.9%を占めます。これは、同じ統計における「たばこ」3,479件を上回る件数です。
ここで大切なのは、「放火」2,392件と「放火の疑い」を含む4,041件を混同しないことです。また、4,041件は建物以外の火災も含む全国の合計であり、そのうち建物火災は1,490件とされています。いずれも調査の進展により変わり得る概数ですが、建物管理においても軽視できない規模といえるでしょう。
どこに火をつけられるおそれがあるのか
同じ消防庁の統計では、「放火」と「放火の疑い」を合わせた火災の主な出火箇所として、建物の外周部が122件、建物の廊下が115件、ごみ集積所が101件挙げられています。東京消防庁も、共同住宅の共用部分にある郵便物や段ボール、ごみなどに放火される事例について注意を促しています。
例えば、玄関前に積まれた段ボールは、入居者にとっては「あとで片づける荷物」でも、第三者が近づける場所では放火の対象になり得ます。ごみ置き場の扉が開いたままになっている、建物の裏側に照明が届かない、空室や倉庫の鍵が壊れている。こうした状態が重なると、第三者が侵入しやすくなったり、放火につながる危険を見逃したりするおそれがあります。
廊下や階段で火災が起きれば、火や煙によって避難に支障が出るおそれもあります。放火対策は、火をつけられないようにするだけでなく、万一の際に避難経路を安全に使える状態にしておくことまで含めて考える必要があります。
放火されにくい建物にする5つのポイント
1.共用部や建物の外に可燃物をためない
最初に取り組みたいのは、廊下、階段、エントランス、建物の外周から、段ボール、古新聞、不要な家具などをなくすことです。共用部の私物は避難の妨げになるうえ、放火の対象にもなります。「少量だから大丈夫」と見過ごさず、誰の物か確認したうえで、管理規約や館内ルールに沿って移動や撤去を依頼しましょう。
特に確認したいのは、人通りが少ない裏口、屋外階段の下、駐車場の隅、植え込みの陰です。見えにくい場所にごみ袋や廃材が繰り返し置かれる場合は、置いた人を責める前に、そこが物を置きやすい場所になっていないかを見直します。清掃や掲示だけで改善しなければ、管理会社と置き場の運用を相談することも有効です。
2.ごみの出し方とごみ置き場の管理を見直す
収集前夜からごみ袋を道路沿いに出す運用は、長時間、燃えやすい物を第三者が容易に近づける場所に置くことにつながります。原則として、地域や建物で定めた日時・場所を守ることが基本です。24時間利用できるごみ置き場がある建物でも、扉がきちんと閉まるか、外部の人が容易に近づけないか、ごみ袋が扉の外へあふれていないかを確認したいところです。
ごみ置き場を施錠する場合は、収集業者や入居者が困らない運用も必要です。また、ごみ袋が避難通路にまで広がっていれば、放火対策以前に避難上の問題が生じます。管理者、清掃担当、入居者・テナントの間で、ごみの出し方や管理のルールを共有しておきましょう。
3.侵入しやすい場所と暗がりを減らす
倉庫、機械室、空室、通用口など、通常は関係者だけが入る場所の施錠状態を確認します。オートロックがある建物でも、扉が開いたままになっていたり、故障したまま放置されたりすれば、十分な出入りの管理はできません。ただし、非常口まで安易に施錠してしまうと、避難時に開けられない危険があります。出入りの制限と避難経路の確保を両立させることが大切です。
夜間に暗くなる建物の外周やごみ置き場では、照明の球切れや故障を放置しないことも重要です。必要に応じて、センサーライトや防犯カメラの設置を管理権原者や管理会社で検討します。ただし、機器を設置するだけで対策が完成するわけではありません。照らす範囲、映像の管理、故障時の対応まで決めて、適切に機能する状態を維持しましょう。
4.「いつもと違う」を共有できるようにする
同じ場所に段ボールが繰り返し積まれる、ごみ置き場の鍵が何度も開いたままになっている、夜間の照明が切れたままになっている。こうした変化は、現場で日々働く管理員や清掃担当、暮らしている入居者、テナント従業員が先に気づくことがあります。連絡先や連絡方法を明確にし、発見した人が管理者へ知らせやすい環境を整えておきましょう。
不審な状況を見つけても、根拠なく特定の人を放火犯と決めつけたり、自分で取り押さえようとしたりすることは危険です。まずは自身の安全を確保し、火災を発見した場合は119番、不審者などによる差し迫った危険がある場合は110番に通報しましょう。
5.火災時の発見と避難にも備える
どれだけ対策をしても、放火を100%防げるわけではありません。火災が起きたときに早く気づき、安全に避難できる状態を整えることも必要です。防火戸の前に物を置かない、避難経路に段ボールを積まない、消防用設備等の不具合を放置しない。こうした基本的な管理は、出火原因を問わず、被害を抑えるための土台になります。
管理員やテナントの担当者には、煙や炎を発見したら119番通報し、周囲に知らせ、安全な経路で避難することを共有しておきます。防火管理者が行う消防訓練も、実際の建物の避難経路や火災時の対応を確認する機会として活用できます。

防火管理者の外部委託サービスでは、巡回で何を見るのか
当社の防火管理者外部委託サービスでは、原則として毎月、現地で巡回防火点検を行い、結果を報告書にまとめ、必要な是正事項をお伝えしています。放火防止の観点から巡回時に着目したいのは、「第三者が近づける場所に、燃えやすい物が残されていないか」という点です。
具体的には、まず共用廊下、階段、踊り場、エントランス等の残置物を確認します。段ボールや古新聞があれば、出火のきっかけになる可能性と、避難経路を狭める問題の両方を考えます。次に、ごみ置き場や建物周囲で、ごみが決められた場所からあふれていないか、屋外の死角に可燃物が置かれていないか等を確認します。
点検で重要なのは、問題点を見つけるだけで終わらせないことです。当社では、巡回点検の結果を報告するとともに、入居者やテナント等に対して問題点を指摘し、改善を提案しています。一方、設備の修理や共用部分の管理方法の変更など、管理権原者による判断や対応が必要な事項については、報告書を通じて状況をお伝えし、改善や原状回復を依頼しています。
毎月の巡回は、建物全体の状態を定期的に見直す機会です。しかし、巡回した翌日にごみが放置されることもあります。日々の清掃や管理員による確認、入居者・テナントからの連絡を組み合わせてこそ、異常を早く発見できます。
建物を守るのは、日常の管理と役割分担
放火対策は、特別な設備を一度設置して終わるものではありません。燃えやすい物を置かない、出入りを管理する、暗がりや設備の故障を放置しない。これらを継続できる管理体制を整えることが大切です。
防火管理者の巡回点検は、普段は見過ごしがちな危険を第三者の目で確認し、改善につなげる機会になります。
なお、防火管理者の外部委託には管轄消防署への事前確認が必要であり、委託が認められる場合でも、防火管理の最終的な責任は管理権原者にあります。
所有者・管理者と防火管理者がそれぞれの役割を果たし、現場で見つかった危険を放置せずに対応する。その積み重ねが、放火されにくく、万一の火災でも安全に避難しやすい建物づくりにつながります。
《参考資料》
総務省消防庁「令和7年(1~12月)における火災の状況(概数)」
https://www.fdma.go.jp/pressrelease/statistics/items/date.pdf
東京消防庁「第5章 火災の予防」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/ts/bfc_manual/instructor/cp5.html
東京消防庁「防火管理者の業務の委託について」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/p06.html









