物置ではない?特別避難階段の附室が果たす役割
防火管理のために建物内を巡回していると、廊下やエレベーターホールと階段室との間に、扉で区切られた小さな空間を見かけることがあります。
壁と扉に囲まれ、普段は人が滞在しておらず、何も置かれていないため、一見すると「物置として使えそうな場所」に感じられるかもしれません。しかし、その空間が「附室(付室)」である場合、段ボールや台車、清掃道具などを置いてはいけません。なお、建築基準法令では「付室」と表記されていますが、消防関係資料や現場では「附室」と表記されることもあります。本稿では、以下「附室」と表記します。
附室は、火災時に煙や炎が階段室へ入り込むのを抑え、避難経路を守るために設けられた重要な空間です。建物によっては、非常用エレベーターの乗降ロビーを兼ね、消防隊の活動拠点として使用されることもあります。
今回は、附室とはどのような場所なのか、なぜ物を置いてはいけないのかを、防火管理の現場から解説します。
防火管理者の外部委託では定期的に建物を巡回する
弊社では、防火管理者の外部委託を受けた建物を定期的に訪問し、防火管理に特化した巡回点検を行っています。
この巡回点検は、消防設備業者が行う消防用設備等の法定点検に代わるものではありません。消防用設備等が正常に作動するかという機能面の確認とは別に、建物が日常的にどのように使われ、防火上危険な状態が生じていないかを防火管理者の責務として確認するものです。
具体的には、主に次のような点を確認します。
- 廊下や階段などの避難経路に物が置かれていないか
- 防火戸や防火シャッターの閉鎖を妨げる物がないか
- 消火器や屋内消火栓など消防用設備が正常に使用できる状態か
- 火気の使用や管理に問題がないか
- 過去に指摘した事項が改善されているか
こうした巡回の際、附室が設けられている建物に出会うことがあります。
附室は、一般の利用者が頻繁に滞在する場所ではありません。広さがあり、扉で区切られているため、その役割を知らなければ、一瞬、物置や荷物置場のように感じてしまう可能性があります。
しかし、附室に何も置かれていないのは、使われていないからではありません。「何も置かれていない状態」そのものが、附室に必要な機能の一部なのです。
附室とは?特別避難階段を煙から守るための空間
附室とは、主に建物の屋内部分と特別避難階段の階段室との間に設けられる空間です。
特別避難階段は、高層階や深い地下階など、火災時の避難に高い安全性が必要となる建物に設けられる階段です。通常の階段よりも煙や炎が入りにくい構造とするため、屋内から直接階段室へ入るのではなく、バルコニーまたは附室を通って階段室へ入る構造が採用されます。
つまり、一般的には次の順序で避難することになります。
「居室・廊下」→「附室」→「特別避難階段」
附室は、火災が発生した屋内部分と避難に使用する階段室との間に設けられた、いわば緩衝空間です。建築基準法施行令第123条では、通常の火災時に生じる煙が附室を通じて階段室へ流入することを有効に防止できる構造とすることなどが定められています。
そのため、附室や階段室は耐火構造の壁などで区画され、内装には不燃材料が使用されます。また、建物の設計に応じて、外気に向かって開く排煙窓、機械排煙設備、加圧防排煙設備などが設けられます。
これらは、附室に煙が入った場合に排出したり、附室や階段室へ煙が入りにくくしたりするためのものです。
《参考》[国土交通省「特別避難階段の階段室又は付室の構造方法を定める件https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201703/00006591.pdf
附室が担う3つの重要な役割
附室には、大きく分けて次のような役割があります。
1.階段室への煙や炎の流入を抑える
火災時に煙が階段室へ入り込むと、上階や下階まで急速に広がり、避難経路として使用できなくなるおそれがあります。附室を間に設け、防火戸や排煙設備などを適切に機能させることで、階段室への煙や炎の流入を抑えます。
2.避難者が安全に階段へ移動するための空間となる
附室は、居室や廊下から特別避難階段へ移動する際に必ず通過する避難経路の一部です。火災時には複数の人が集中する可能性があるため、必要な広さと通行できる状態を常に維持しなければなりません。
3.消防隊の活動を支える
建物によっては、特別避難階段の附室と非常用エレベーターの乗降ロビーが兼用されています。非常用エレベーターは、災害時に消防隊が消火・救出活動を行うために使用する設備です。その乗降ロビーは、消防隊が資機材を準備し、火災階へ進入するための前線基地となります。
中央区の資料でも、特別避難階段の附室には、煙や炎が階段室へ流入することを抑える役割のほか、避難や救助、消火活動を支える役割が期待されていると説明されています。
なお、特別避難階段の附室と非常用エレベーターの乗降ロビーは、制度上の目的や構造基準がすべて同じというわけではありません。ただし、両者を兼用している建物では、避難経路と消防活動拠点という二つの重要な役割を担うことになります。
《参考》[中央区「非常用EVの乗降ロビーと避難階段の位置関係」
https://www.city.chuo.lg.jp/documents/17063/2-4_hijyouyouev.pdf

附室には保管や仮置きの物を一切置かない
附室の役割を考えれば、ここを物置として使用してはいけない理由が分かります。
法令上必要な防災設備や建物に固定された設備を除き、段ボール、商品、台車、清掃道具、傘立て、自転車、ベビーカー、廃棄予定品など、保管や仮置きを目的とした物品は一切置かないことが原則です。
附室に物を置くと、次のような危険が生じます。
1.避難の妨げになる
火災時には、煙によって視界が悪くなり、多くの人が一斉に避難する可能性があります。普段は通れる程度の荷物でも、緊急時には転倒や衝突の原因となります。車椅子や担架での移動を妨げることもあります。
2.防火戸が閉まらなくなる
附室の出入口には、防火戸などが設けられています。扉の前や可動範囲に物が置かれていると、火災時に扉が完全に閉まらず、煙や炎が階段室へ入り込む可能性があります。換気や通行のために防火戸をストッパーなどで固定しておくことも危険です。
3.排煙設備の機能を妨げる
附室には、排煙窓、排煙口、給気口、手動開放装置などが設けられている場合があります。これらの前に棚や荷物が置かれると、火災時に操作できなかったり、煙の排出や給気を妨げたりするおそれがあります。
4.可燃物が新たな火災リスクになる
段ボールや紙類、清掃用品などの可燃物を置けば、本来は安全性を高めるための空間に、新たな火災荷重を持ち込むことになります。煙や炎から階段室を守るはずの附室が、出火や延焼の場所になっては意味がありません。
5.消防隊の活動を妨げる
非常用エレベーターの乗降ロビーを兼ねる附室では、消防隊がホースや資機材を展開します。荷物によって活動スペースが狭くなれば、火災階への進入や救助活動が遅れる可能性があります。
「少しだけ」「今日だけ」「すぐに移動するから」という一時的な仮置きも認めない運用が必要です。一度物を置くことが許されると、別の人も同じ場所に物を置き始め、いつの間にか常設の物置になってしまうためです。

附室を巡回するときに確認したいポイント
附室がある建物では、次の状態を継続して確認することが重要です。
- 床や通路に物品が置かれていないか
- 出入口の前や扉の可動範囲に障害物がないか
- 防火戸が最後まで正常に閉まるか
- 防火戸がストッパーなどで固定されていないか
- 排煙窓、排煙口、給気口がふさがれていないか
- 手動開放装置や表示が見える状態になっているか
- 消火設備や消防隊の活動スペースが確保されているか
物が置かれている場合は、単にその場から移動させるだけでは不十分です。誰が置いたのか、なぜ置かれたのか、代わりの保管場所を確保できるかまで確認し、同じ状態が繰り返されないようにする必要があります。
まとめ|何も置かれていない空間には理由がある
附室は、余った空間でも、使われていない部屋でもありません。煙や炎から特別避難階段を守り、避難者の移動や消防隊の活動を支えるために確保された重要な空間です。一見すると物置のように使えそうでも、そこに何も置かれていないことには理由があります。
附室に限らず、階段、廊下、避難口、防火戸の前、避難ハッチの周辺、非常用進入口など、避難や消防活動に使用する場所には物を置かないことが基本です。
防火管理では、消防訓練や消防計画の作成だけでなく、こうした日常的な建物の使われ方を確認し、危険な状態を早期に改善することが重要です。「今すぐ使わない場所」ではなく、「火災が起きたときに必ず使える状態にしておく場所」として、附室や避難経路を適切に維持管理しましょう。









