避難はしごの降下場所に物を置いてはいけない理由

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防火点検で見つかった改善事例|植木鉢ひとつが避難を妨げる可能性も

防火管理者のこづっきです。

マンションの防火管理において、避難経路を確保しておくことは非常に重要です。廊下や階段など、建物利用者が日常的に通行する避難経路については、私物を置かないようにする必要性が比較的理解されやすい一方で、意外と見落とされやすいのが「避難はしごの降下場所」です。

避難はしごは、火災などにより玄関側から避難できなくなった場合に、最終手段としてバルコニー側から下階へ避難するための設備です。普段使用する機会がほとんどないため、日常生活の中で意識されにくい設備ですが、いざというときに使えなければ、上階に住む方の命に関わる重大な問題につながる可能性があります。

今回は、実際にあった事例をもとに、避難はしごの降下場所に物を置いてはいけない理由と、建物利用者が注意すべきポイントについて解説します。

1階店舗前に置かれていた大きな植木鉢

兵庫県のあるマンションで、巡回防火点検を行っていたときのことです。

そのマンションの1階には洋服販売店が入っており、店舗入口の右手に大きな植木鉢が置かれていました。一見すると店舗の雰囲気にもよく合っており、長年大切に育てられてきたことがわかる立派な植木でした。

しかし、気になったのは、その植木鉢が避難はしごの降下場所付近に置かれていたことです。

避難はしごは、火災などにより玄関側からの避難が難しくなった場合に、最終手段としてバルコニー側から下階へ避難するための設備です。そのため、上階に避難はしごが設置されている場合、下階には人が安全に降りられるスペースを確保しておく必要があります。

その場所に大きな植木鉢や荷物、自転車、物置などが置かれていると、避難はしごを降ろせなかったり、降りた先に安全に着地できなかったりするおそれがあります。

そこで、店舗の店長に声をかけ、植木鉢について確認しました。

「閉店時には店内に入れているのですか」と確認したところ、夜間も含めて常に外に置いているとのことでした。さらに話を聞くと、その植木はもともと小さなものだったものの、10年ほど経つうちに大きく成長したとのことでした。

お店とともに育ってきた植木であり、店長にとっても思い入れのあるものだったと思います。店舗の成長とともに大きく育った植木は、まさに企業の成長の象徴ともいえる素晴らしいものでした。

ただし、避難はしごの降下場所に置かれている以上、防火管理上、そのままにしておくことはできません。

店長には、植木そのものが悪いわけではないことをお伝えしたうえで、避難はしごの降下場所をふさいでしまう位置にあること、万一の火災時には上階の方の避難に支障が出る可能性があることを説明しました。

その結果、店長にもご理解いただき、植木鉢を店内に移動してもらうことができました。

これは、防火管理の現場における良い改善事例だったと感じています。単に「置いてはいけません」と注意するのではなく、相手の事情や思い入れも理解したうえで、なぜ移動が必要なのかを丁寧に伝えることで、円滑な改善につながった事例です。

上階に避難はしごが設置されている場合、下階には人が安全に降りられるスペースを確保しておく必要があります。  その場所に大きな植木鉢や荷物、自転車、物置などが置かれていると、避難はしごを降ろせなかったり、降りた先に安全に着地できなかったりするおそれがあります。

避難はしごの降下場所になぜ物を置いてはいけないのか

避難はしごの降下場所に物を置いてはいけない理由は明確です。火災発生時に、上階の方が避難できなくなる可能性があるためです。

マンションなどの専有部で火災が発生した場合、火元の位置や煙の広がり方によっては、必ずしも玄関側から避難できるとは限りません。また、自宅以外で発生した火災であっても、共用廊下に煙が充満している場合や、火元の位置によって廊下側へ出られない場合には、バルコニー側の避難はしごが重要な避難手段になることがあります。

その際、避難はしごを使おうとしても、下階の降下場所に物が置かれていれば、安全に降りることができません。

例えば、バルコニーの上部に設置された避難はしごの下に植木鉢や物置、洗濯物干しなどが常時置かれているケースは、いずれも避難の妨げになる可能性があります。普段は問題がないように見えても、火災時には避難はしごを降ろせない、降りた先に着地できない、避難する人が転倒するなど、重大な支障につながるおそれがあります。

日常生活の中では、バルコニーを専有部の一部と勘違いし、インテリア性や日常の使いやすさを優先して、植木鉢や収納用品などを置いてしまうケースがあります。特にバルコニーは、普段その住戸の居住者が専用的に使用しているため、「自分の部屋の延長」として考えられがちです。

しかし、マンションのバルコニーは、一般的に共用部分にあたり、各住戸の居住者が専用使用権に基づいて使用している場所です。そのため、居住者が自由に何でも置いてよい場所ではありません。

特に、避難はしごの降下場所という視点で見ると、何気なく置かれた私物であっても、火災時には重大な避難障害になる可能性があります。避難はしごの周辺や降下場所には、植木鉢や収納用品などを置かず、常に避難に支障のない状態を保つことが重要です。

なお、総務省消防庁の「避難器具の基準」でも、避難器具の一つとして「避難はしご」が示されています。避難はしごは、火災時などに通常の避難経路が使えない場合の重要な避難手段となるため、設置場所や降下場所をふさがず、いつでも使用できる状態を保つことが重要です。

《参考》総務省消防庁 避難器具の基準(昭和53年消防庁告示1)
https://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/post57/?utm_source=chatgpt.com

火災時に避難できなかった場合のリスク

避難はしごの降下場所に物が置かれていたことで、万一、上階の方が避難できなかった場合、非常に大きな問題に発展する可能性があります。

もちろん、火災時にはさまざまな要因が重なります。避難できなかった原因が、すべて降下場所の障害物だけにあると直ちに判断されるわけではありません。しかし、避難器具の使用を妨げる状態が放置されていた場合、防火管理上の問題となる可能性があります。

特に、降下場所に置かれていた物が原因で避難はしごを使用できなかった、または安全に降りられなかったと判断された場合、管理上の責任や損害賠償の問題に発展する可能性も否定できません。

置かれていたものが「ただの植木鉢」であったとしても、火災が起きてからでは取り返しがつきません。昔から置いていたものだった、これまで誰からも注意されなかった、避難はしごがあるとは知らなかったという事情があったとしても、万一の際に避難を妨げる状態になっていれば、大きな問題となる可能性があります。

防火管理において重要なのは、事故が起きてから責任の所在を考えることではなく、事故が起きる前に危険な状態を取り除いておくことです。

避難はしごの降下場所に物を置かないことは、難しい対策ではありません。少し位置を変える、別の保管場所を用意する、常時置かないようにする。そうした日常的な配慮で、万一の避難手段を守ることができます。

巡回防火点検だけでは確認しきれない場所

当社がマンションの防火管理者を受託した場合、定期的に巡回防火点検を行い、共用廊下や階段、エントランス、駐車場、ゴミ置場などの状況を確認します。しかし、バルコニーについては事情が異なります。

バルコニーは共用部分でありながら、各住戸が専用的に使用している場所です。そのため、巡回防火点検で外部からすべてのバルコニー内を確認することは、現実的に難しい場合があります。

共用廊下に置かれた私物であれば巡回時に確認しやすいですが、バルコニー内の避難はしご周辺や降下場所に置かれた物は、外から見えにくいことがあります。そのため、避難はしご周辺の障害物は、概ね半年に一度実施される消防設備点検の際に発覚することがあります。

消防設備点検では、点検業者が住戸内に立ち入り、バルコニーに設置された避難器具を確認する場合があります。その際、避難はしごの上に物が置かれている、降下場所に障害物があるといった状態が確認されれば、指摘事項として挙げられることがあります。

つまり、普段は見つかりにくい場所だからこそ、各住戸で日常的に注意しておくことが重要です。巡回防火点検で見つからなかったから問題ないということではなく、居住者や店舗利用者が日頃から避難器具の周辺を意識しておく必要があります。

一方で、避難はしごは必ずしもすべての住戸のバルコニーに設置されているわけではありません。建物の構造や避難計画によって、避難はしごが設置されている住戸と、設置されていない住戸があります。

ただし、避難はしごが自宅のバルコニーに設置されていない場合でも、無関係というわけではありません。火災時には、蹴破り戸を破って隣戸へ横移動し、避難はしごが設置されているバルコニーまで移動することで、安全に避難できる可能性があります。

つまり、避難はしごは設置されている住戸の方だけが使うものではなく、同じ階や周辺住戸の方にとっても重要な避難手段となります。そのため、避難はしごの周辺や降下場所をふさがないことは、マンション全体の安全を守るうえで非常に重要です。

避難はしごの設置場所と降下場所を確認しましょう

今回紹介した1階店舗前の植木鉢の事例では、店舗の成長とともに育った大切な植木であったものの、避難はしごの降下場所に置かれていたため、移動をお願いしました。結果として、店長にもご理解いただき、改善につなげることができました。

防火管理では、相手の事情を無視して一方的に注意するのではなく、なぜ危険なのか、どのようなリスクがあるのかを丁寧に伝えることが大切です。今回の事例も、植木そのものを否定するのではなく、置かれている場所が避難上の支障になることを説明したことで、円滑な改善につながりました。

マンションにお住まいの方、店舗を運営されている方、管理組合・管理会社の皆さまは、ぜひ一度、避難はしごの設置場所と降下場所を確認してみてください。

バルコニーに避難はしごが設置されている場合は、その上や周辺に物を置かないようにしてください。また、下階にあたる住戸や店舗では、上階から人が降りてくる降下場所に、植木鉢や収納用品、店舗備品などを置かないよう注意が必要です。

小さな確認と改善が、火災時の大きな安全につながります。

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