タイ・バンコクのパブ火災から学ぶ避難経路確保の重要性

避難経路確保の重要性
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非常口があっても逃げられない|避難経路が塞がれることの重大なリスク

2026年7月、タイの首都バンコクにある飲食店で大規模な火災が発生しました。7月15日時点で少なくとも32人が死亡し、70人以上がけがをしたと報じられています。負傷者の中には、現在も集中治療を受けている人がいます。

現地では、天井付近に設置されたエアコンの電気系統から出火した可能性が指摘されています。また、非常口の一部が塞がれていたことや、別の扉が無銭飲食を防ぐ目的で施錠されていた可能性も報じられており、当局が出火原因や店の安全管理について調査を進めています。

国や地域によって、防犯上の事情や店舗の管理方法には違いがあります。そのため、今回の事例をそのまま日本の建物に当てはめることはできません。

しかし、この火災から考えなければならない本質は共通しています。それは、建物に非常口が設けられていても、火災時に実際に使用できなければ、避難口としての役割を果たさないということです。

非常口や避難経路は、図面上に存在しているだけでは意味がありません。

扉が施錠されている、扉や通路に荷物が置かれている、避難口の位置が利用者に分からないといった状態では、火災発生時に避難経路が事実上失われてしまいます。

火災時には普段と同じように行動できない

通常時であれば、通路に多少の荷物が置かれていても、その横を通り抜けられるかもしれません。非常口の扉が開けにくい場合でも、落ち着いて操作すれば開けられることもあります。しかし、火災時の状況はまったく異なります。

警報音が鳴り、炎や煙が広がる中、多くの人が一斉に出口へ向かえば、現場が混乱状態に陥る可能性があります。また、火災によって配線や電気設備が損傷し、停電が発生することも考えられます。

煙によって視界が遮られると、どちらへ向かえばよいのかを判断することが難しくなります。その結果、普段は簡単に通れる場所であっても、荷物につまずいたり、避難口を見失ったりする危険が高まります。

火災の煙には、一酸化炭素をはじめとする有害なガスが含まれており、吸い込むことで呼吸困難や意識障害を起こし、自力で避難できなくなる危険があります。さらに、熱せられた煙は上昇しながら短時間で室内に広がるため、避難できる時間は想像以上に限られています。だからこそ、火災時でも迷わず安全に通れるよう、避難経路を常に確保しておくことが重要です。

バンコクの火災では、多くの犠牲者が建物後方にある窓のないトイレなどで見つかったと報じられています。炎や煙を避けようとしてトイレに逃げ込んだものの、煙に巻かれ、屋外へ避難できなかった可能性が指摘されています。

火災時には、必ずしも最も安全な出口を冷静に選べるとは限りません。普段使っている出入口へ戻ろうとしたり、周囲の人の動きについて行ったり、煙を避けようとして建物の奥へ進んでしまったりすることもあります。

だからこそ、誘導灯の電池切れや故障を放置せず、正常に点灯する状態を保つことが重要です。あわせて、非常時に問題なく扉が開放でき、そこまでの通路が常に安全に通行できる状態に保たれていなければなりません。

「少し置くだけ」が避難を妨げる

避難経路を塞ぐ原因は、大きな棚や機械だけではありません。商品、清掃用具、ごみ袋、台車、椅子、自転車など、住人や店舗が日常的に使用する物も、火災時には避難の妨げになる可能性があります。

通常時には十分通れるように見えても、煙で足元が見えない状況では、床に置かれた小さな物でも転倒の原因になります。1人が転倒すれば、その後ろから避難してきた人が次々に重なり、通路や出口付近に人が集中するおそれがあります。

東京消防庁は、消防計画において、避難口、廊下、階段、通路などが有効に機能するように管理方法を定め、避難の障害になる物品を置かず、発見した場合は除去することを示しています。

「営業時間が終わったら片づける」「一時的に置いただけ」「普段は人が通らない場所だから大丈夫」という判断は危険です。火災は、荷物を片づけた後に起きるとは限りません。避難経路は、建物を使用している間、常に確保されている必要があります。

避難経路を塞ぐことは消防活動も妨げる

避難経路は、建物利用者が外へ逃げるためだけのものではありません。消防隊が建物内へ進入し、逃げ遅れた人を救助し、消火活動を行う際にも、廊下、階段、出入口などを使用します。

通路に荷物が積まれていれば、消防隊員がホースや救助器具を持って移動する際の障害になります。煙で視界が悪い中では、放置された荷物につまずいたり、進入経路を見失ったりする危険も高まります。

また、通路や階段に置かれた段ボール、紙類、商品などが燃えれば、避難経路そのものが新たな火元になります。避難経路に置かれた可燃物は、人の移動を妨げるだけでなく、炎と煙を拡大させ、建物の奥まで火災を広げる原因になり得ます。

避難経路は、建物利用者が外へ逃げるためだけのものではありません。消防隊が建物内へ進入し、逃げ遅れた人を救助し、消火活動を行う際にも、廊下、階段、出入口などを使用します。

防火戸や防火シャッターの周囲にも物を置かない

防火戸や防火シャッターの周辺に物が置かれている場合も同様です。防火戸や防火シャッターは、火災時に閉鎖することで、炎や煙が別の区画へ広がることを抑える設備です。しかし、作動範囲に物品が置かれていたり、閉鎖する途中で物が挟まったりすると、完全に閉鎖できず、本来の機能を発揮できません。

その結果、炎や煙が階段や廊下などの避難経路へ急速に広がり、多くの人の避難を困難にして、命を危険にさらすおそれがあります。

2001年9月に発生した新宿・歌舞伎町の雑居ビル火災では、44人が亡くなりました。

この火災では、階段にロッカーや段ボールなどの物品が置かれていたほか、防火戸が開放されたままになっていました。こうした複数の防火管理上の問題により、避難や消防活動が妨げられ、炎や煙が急速に広がったことが、被害を拡大させた要因とされています。

階段や廊下に置かれた物は、避難や消防活動の妨げになるだけではありません。可燃物であれば火や煙を広げ、防火戸の閉鎖を妨げることで、本来は守られるはずの避難経路を危険な場所に変えてしまう可能性があります。

防火戸、誘導灯、避難経路図など、火災時に人命を守る建物設備の役割については、東京消防庁の以下のページで、図を交えて分かりやすく紹介されています。

《参考》東京消防庁「第12章 火災の時に役立つ建物の設備」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/ts/bfc_manual/instructor/cp12.html

非常口の位置を知っているだけでは足りない

従業員に「非常口の場所を知っていますか」と尋ねると、多くの人が「知っている」と答えるかもしれません。しかし、本当に確認すべきなのは、非常口の位置だけではありません。

実際に扉を開けられるか、扉の先が安全な場所につながっているか、途中に段差や障害物がないか、夜間や停電時にも誘導灯を確認できるか、避難した先が行き止まりになっていないかなど、避難経路全体を確認する必要があります。

東京消防庁も、火災時には煙で前が見えなくなり、知っている建物であっても避難が難しくなるため、避難経路図を確認し、実際に避難口まで歩いて経路を確かめることが大切だと説明しています。

そのため、避難訓練も、会議室で手順を読み上げるだけでは十分とはいえません。実際に避難経路を歩き、非常口の扉を開け、屋外の避難場所まで移動することで、初めて気づく問題があります。

例えば、非常口の前に商品が置かれている、扉が重くて開けにくい、鍵の操作方法が分からない、避難先に自転車や車両が置かれている、誘導灯が什器に隠れて見えないといった問題です。

訓練は、決められた手順を確認するだけでなく、実際の建物に問題がないかを発見する機会でもあります。

避難経路は日常的に確認する

避難経路の安全を維持するためには、防火管理者が消防計画に基づいて、建物内を定期的に確認することが重要です。

物品の放置など、防火管理上不適切な状況を確認した場合は、所有者や使用者などの関係者に移動や改善を求めます。持ち主が分からない場合には、警告文を掲示するなど、建物の実情に応じた対応を行い、放置された状態を見過ごさないことが大切です。

さらに、巡回や点検を行った際は、確認した内容、改善を求めた事項、その後の対応状況を記録として残すことが望まれます。管理権原者である建物オーナーや事業主などへ報告することで、問題点を共有し、必要な改善につなげることができます。

こうした記録は、適切な防火管理を継続してきたことを示す証跡にもなります。問題を指摘するだけで終わらせず、改善されたかどうかを継続して確認することも重要です。

東京消防庁は、防火管理者の責務として、避難や防火上必要な構造・設備の維持管理、消防計画の作成、消火・通報・避難訓練の実施などを挙げています。また、防火管理者は、必要に応じて管理権原者に指示を求め、誠実に職務を遂行する立場とされています。

これらの業務は、一つひとつを見ると決して難しいものではありませんが、避難経路の確認、関係者への改善依頼、記録の作成と報告を継続することは、防火管理者が果たすべき大切な役割と考えます。

防火管理者の外部委託という選択肢

本業が忙しく、防火管理のための時間を十分に確保できない場合や、継続的な巡回、記録、改善対応が難しい場合には、一定の要件のもとで、防火管理者の外部委託を活用できる場合があります。

ただし、すべての建物で自由に外部委託できるわけではありません。外部委託の可否や必要な手続きは、建物の用途、規模、管理状況などによって異なるため、事前に管轄消防署へ確認する必要があります。

また、防火管理者を外部へ委託した場合であっても、建物の防火管理について最終的な責任を負うのは、建物オーナーや事業主などの管理権原者です。

外部委託は、防火管理の責任そのものを外部へ移す制度ではありません。専門的な知識や実務体制を活用しながら、管理権原者と防火管理者が連携して、防火管理を継続するための選択肢です。

非常口は「最後に使う扉」ではない

非常口は、普段使われる機会が少ないため、建物の中で軽視されやすい場所です。「普段は使わないから」という理由で、非常口の前や避難経路が荷物置き場のように使われてしまうことがあります。

しかし、火災時には、その普段使われていない扉が、命を守る唯一の経路になるかもしれません。

バンコクの火災については、現在も当局による調査が続いています。出火原因や非常口の管理、可燃性の内装材などが被害の拡大にどの程度影響したのかは、今後さらに明らかになると考えられます。

ただし、避難経路が塞がれていることが危険であるという点は、調査結果を待つまでもありません。

非常口があるかどうかではなく、いつでも確実に使えるか
避難経路が図面に記載されているかではなく、実際に安全に通れるか

防火管理では、この視点が重要です。今回の火災を遠い国の事故として終わらせず、自分たちの建物の避難経路を改めて確認する機会にしてほしいと思います。

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