名義貸しではない実務型の防火管理が評価された事例
防火管理者のこづっきです。
近年、都市部を中心に、無人で運営されるレンタルスペースなど会員制施設が増えています。たとえば、ワークスペース、音楽スタジオ、シミュレーションゴルフ、トレーニングジム、撮影スタジオなど、利用者が予約システムを通じて入室し、スタッフが常駐しない形で運営される施設です。
セキュリティシステムや予約管理システムの向上により、こうした無人運営の施設は増加しています。利用者にとっては気軽に利用できる便利さがあり、オーナー様にとっても人件費を抑えながら運営できるというメリットがあります。
一方で、防火管理の面では大きな課題があります。
それは、現地にスタッフが常駐していない中で、火気管理や避難経路の確保、消防用設備周辺の確認など、利用者を火災事故から守るための業務を、誰が、どのように、継続的に行うのかという問題です。
防火管理者を選任する必要がある建物やテナントでは、単に資格者の名前を届け出ればよいわけではありません。消防計画に基づき、消防用設備の管理、消防訓練の実施、避難経路の確保など、実際の防火管理業務が求められます。
東京消防庁の「防火管理 実践ガイド」でも、防火管理制度や消防計画、自衛消防訓練、各種届出など、防火管理に関する実務上のポイントが整理されています。防火管理は、単に防火管理者を選任するだけでなく、消防計画に基づいた日常的な管理や訓練、記録の積み重ねが重要となります。
《参考》東京消防庁 防火管理 実践ガイド
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/index.html
しかし、常駐スタッフがいない無人運営の施設では、防火管理者の選任や実務の継続に悩まれるオーナー様も少なくありません。
今回は、当社が防火管理者外部委託サービスを受託している無人レンタルスペースにおいて、消防署の査察が行われた際、日頃の実務と記録が高く評価され、指摘事項なしで完了した事例をご紹介します。
無人店舗の防火管理者外部委託で注意すべき「名義貸し」のリスク
今回、消防査察の対象となった物件は、首都圏のある地域にある個室型のレンタルスペースです。
施設内には、複数のコンセプトルームがあり、利用者は予約システムを通じて入室する仕組みです。いわゆる無人店舗であり、現地にスタッフが常駐して日常的に利用者対応や巡回を行う形ではありません。
このような施設では、一般的な有人店舗と比べて、防火管理上の確認が難しくなる場面があります。
たとえば、利用者が避難通路や防火戸に影響が出る状態で荷物等を置いていないか、消火器の周囲に障害物が置かれた状態でないか、誘導灯の視認性に問題がないかなど、室内や共用部に防火管理上の問題が生じていないかといった点です。
有人店舗であれば、スタッフが日常業務の中で異常に気づき、その場で対応できる場合もあります。しかし、無人運営の場合、現場を確認する仕組みがなければ、問題が発生していても気づきにくくなります。
そのため、無人レンタルスペースでは、形式的に防火管理者を選任するだけでは不十分で、万一火災事故が発生した場合に、日常的に防火管理に努めていた証として、有人店舗以上に、「定期的に現地を確認する仕組み」と「確認した事実を記録として残す仕組み」が重要になります。
今回のオーナー様も、防火管理者の選任にあたり、いわゆる名義貸しのような状態になることを非常に懸念されていました。名義貸しとは、資格者の名前だけを届け出ているものの、実際には現地確認や防火管理業務がほとんど行われていない状態を指します。
もちろん、防火管理者を外部に委託すること自体が、直ちに問題となるわけではありません。建物やテナントの状況によっては、外部の専門会社に防火管理業務を委託することが現実的な選択肢となる場合もあります。
問題は、外部委託でありながら、実態として防火管理業務が行われていない場合です。
たとえば、消防署へ必要な書類は提出され、資格者の名前も届け出られているものの、実際には現地確認が行われていないケースです。避難経路や消防設備周辺の状況が確認されておらず、点検記録も残されていない状態では、防火管理が適切に機能しているとはいえません。
このような状態では、万が一火災が発生した際に、「防火管理を適切に行っていた」と説明することは困難です。
無人レンタルスペースの消防査察で確認される日常管理の実態
先日、対象物件に消防署の査察が入ることになり、当社が現地で立会いました。
消防査察では、防火管理者が選任されているか、消防計画が届出されているか、消防訓練が適切に実施されているか、消防用設備点検が行われているか、消防用設備に異常はないか、避難経路に障害物がないかなど、さまざまな点が現地で確認されます。
ただし、今回のような無人レンタルスペースでは、単に書類がそろっているかどうかだけではなく、実際に日常的な防火管理が行われているのかという点が重要になります。
消防署の立場から見れば、無人施設の場合、防火管理者は選任されているものの、実際に現地を確認しているのか、書類だけが提出され、現場が放置された状態になっていないかという点は当然確認したいところです。また、避難経路や消火器周辺の状況を誰が確認しているのか、問題があった場合に改善へつなげる仕組みがあるのか、管理権原者が現地の状況を把握できているのかといった点も、重要な確認事項になります。
特に、無人店舗や無人レンタルスペースでは、管理の実態が見えにくくなりがちです。
そのため、査察の場では、防火管理者の名前や消防計画の有無だけでなく、「点検時の記録があるかどうか」が重要な意味を持ちます。
写真付きの巡回点検報告書が、管理実態を証明
当社では、巡回防火点検を定期的に実施し、その都度、写真付きの報告書を作成しています。
今回の査察では、当社の点検担当者が毎月現地へ足を運び、消火器の周囲、避難通路の安全性、誘導灯の視認性などを確認している写真付きの報告書を提示しました。この報告書により、実際にどの場所を確認し、防火管理上の問題がなかったかを、写真とともに具体的に確認することができます。
これらは、文章だけの報告では伝わりにくい部分です。しかし、写真があることで、実際に現地を確認していることが明確になります。さらに、継続して記録が残っていることで、一時的に取り繕ったものではなく、日常的に防火管理が行われていることを示すことができます。
防火管理においては、現地で問題を見つけ、必要に応じて改善につなげることが最も大切です。一方で、「いつ、誰が、何を確認したのか」を記録として残すことも同じように重要です。記録がなければ、あとから「実施していた」と説明しても、その事実を客観的に示すことは難しくなります。
今回の査察では、当社が日頃から作成している写真付きの巡回点検報告書が、日常的に防火管理を行っていることを示す資料として、非常に大きな意味を持ちました。

消防署員から評価された「実務としての防火管理」
査察の場で、当社の巡回点検報告書や管理記録をご確認いただいたところ、消防署員の方から、当社の管理体制について高い評価をいただきました。
形式的な選任にとどまらず、毎月現地を確認し、写真付きで詳細な記録を残している点について、「非常に信頼が置ける安心な管理体制」である旨のお言葉をいただきました。これは、当社にとっても非常にありがたい評価でした。
防火管理者の外部委託サービスは、外から見ると、単なる書類作成や届出代行のように思われることがあります。しかし、実際に重要なのは、届出をした後の運用です。
たとえば、避難経路が適切に確保されているか、防火戸の閉鎖を妨げる物が置かれていないか、消火器などの消防用設備の周囲に障害物がないかを確認する必要があります。また、たばこの不始末やゴミの放置など、火災発生の原因となり得る危険な状態がないかについても、継続的に確認することが重要です。
また、問題がある場合だけでなく、問題がない場合であっても、確認した内容を記録し、管理権原者へ都度報告することが重要です。問題が見つかった場合には、防火管理者として改善につながる対応を行うとともに、管理権原者が対応すべき事項については、具体的に依頼・共有する必要があります。
このように、現地確認、記録、報告、改善依頼までを継続して行ってこそ、防火管理が実務として機能しているといえます。
今回の査察では、その点が消防署員の方にも伝わり、当社の実務型サービスが評価される結果となりました。
消防査察の結果は「指摘事項なし」で完了
今回の消防査察の結果、対象物件については指摘事項なしで完了しました。日頃から実施している巡回防火点検とオーナー様との継続的な情報共有が、査察時の説明としっかり結びついた結果だと考えています。
これは、単に「たまたま問題がなかった」という話ではありません。日頃から管理実態を積み重ねていたからこそ、査察時にも自信を持って説明できたということです。
もし、現地確認を行っていなかった場合、あるいは記録が残っていなかった場合、同じように説明することは難しかったはずです。特に無人施設の場合、現場で働くスタッフがいないため、「日常的に誰が見ているのか」という点は厳しく見られます。
その意味で、毎月の巡回点検と写真付き報告書は、単なる社内資料ではありません。消防署への説明資料であり、オーナー様の防火管理体制を示す証拠であり、万が一の際に社会的信用を守るための重要な記録でもあります。
無人化ビジネスが広がる中で、防火管理の重要性は高まっている
近年、無人店舗や無人サービスは、さまざまな分野に広がっています。
24時間ジム、インドアゴルフ、レンタルスペース、コワーキングスペース、セルフエステ、無人販売店など、人が常駐しない運営形態は、今後も増えていくと考えられます。
無人化には、ビジネス上の大きなメリットがあります。人件費を抑えられることに加え、営業時間を長く設定しやすく、予約システムやスマートロックと組み合わせることで、効率的な運営が可能になります。また、小規模なスペースでも事業化しやすい点も、無人サービスが広がっている理由の一つです。
一方で、防火管理上は、有人店舗とは異なる課題があります。
無人施設であっても、防火管理者を選任して終わりではありません。防火管理者が定期的に現地を確認し、その都度記録を残すなど、防火管理業務を継続して行う必要があります。また、建物や用途によっては消防訓練の実施も求められますが、実際に利用者が常駐していない施設では、誰を対象に、どのような方法で訓練を行うのかという点で、運用上の難しさがあります。
これらの業務を、たとえば提携している清掃会社に任せることは現実的に難しい場合が多いと考えられます。清掃業務と防火管理業務では確認すべき視点が異なり、避難経路、消防用設備、防火戸、火災発生の原因となり得る状況などを、防火管理の観点から確認する必要があるためです。
また、スーパーバイザーのように複数店舗を管理する社内担当者が定期的に巡回する方法も考えられますが、本来業務とは異なる防火管理業務を継続的に担うことは、担当者にとって大きな負担となります。さらに、確認内容や記録の残し方が属人的になってしまうと、消防査察時に十分な説明ができない可能性もあります。
こうした点を考えると、無人施設では、通常以上に管理の仕組みづくりが重要になります。
万が一火災が発生し、不十分な防火管理が原因で利用者が被害に巻き込まれた場合、「無人施設だから仕方がない」という判断には決してなりません。むしろ、人が常駐していない施設だからこそ、事前にどのような管理体制を整えていたのか、日常的にどのような確認を行っていたのかが厳しく問われることになります。
また、火災事故は利用者の安全を脅かすだけでなく、企業としてこれまで築いてきた信頼を一気に揺るがす原因にもなり得ます。便利で効率的な無人サービスであっても、安全管理が不十分であれば、事業そのものへの信頼を損なう可能性があります。
そのため、「無人だから管理ができない」のではなく、「無人だからこそ、管理を仕組み化する必要がある」という考え方が大切です。
防火管理者の外部委託は、金額だけで判断してよいのか
防火管理者の外部委託を検討する際、月額料金の安さだけで比較されることがあります。
もちろん、コストは重要です。しかし、防火管理者の外部委託において本当に確認すべきなのは、料金の安さだけではありません。
定期的に現地確認が行われるのか、写真付きの報告書が作成されるのか、問題の有無にかかわらず管理権原者へ報告されるのか、問題があった場合にどのように対処するのか。さらに、消防訓練を適切に実施できるノウハウがあるのか、消防査察の際に現地で防火管理体制を説明できるのかといった点も重要です。
これらを確認しないまま料金だけで業者を選んでしまうと、いざ消防査察が入ったときや、万が一火災が発生したときに、「実際にどのような防火管理を行っていたのか」を説明できないおそれがあります。
防火管理は、普段は目立ちにくい業務です。しかし、査察や事故が起きたときには、日頃の積み重ねがそのまま問われます。特に、防火管理上の不備が火災事故につながった場合、問題は建物内だけにとどまりません。利用者や関係者の安全に関わるだけでなく、企業がこれまで時間をかけて築いてきた信頼やブランドイメージにも大きな影響を与える可能性があります。
当社が写真付きの巡回点検報告書を重視しているのは、消防署へのアピールのためだけではありません。最も大きな理由は、管理権原者様を守るためです。
防火管理上の責任は、外部へ委託したからといって完全になくなるものではありません。建物やテナントの管理権原者としての責任は残ります。だからこそ、外部委託先が実際に何を行っているのか、どのような管理を継続しているのかを、記録として確認できることが重要です。
写真付きの報告書は、「防火管理を実施していた」という事実を客観的に示す資料になります。消防査察時の説明だけでなく、社内説明、管理会社やオーナー様との情報共有、万が一の事故やトラブル発生時にも、日頃の管理状況を説明するための重要な資料になります。
外部委託は、単に「防火管理者の名前を用意するための費用」ではありません。建物と利用者の安全を守り、管理権原者としての説明責任を果たすための体制づくりです。
だからこそ、防火管理者の外部委託は、金額の安さだけで判断するのではなく、実際にどこまでの業務を行い、どのような記録を残し、消防査察や万が一の事態に対応できるのかまで確認したうえで選ぶことが大切です。








