廊下には自転車を置かないでください
防火管理者のこづっきです。
関西エリアに位置する、約80名が入居する上場企業の独身寮の防火管理者に選任されています。この寮を管理する担当者から「おかげさまで共用部に放置されていた自転車の数が大幅に減少しました」と感謝の言葉をいただきました。
首都圏を含め独身寮を複数棟受託していますが、どの寮も近代的なマンションを一棟借り上げているような印象で豪華です。さすが大企業の福利厚生は充実していると実感します。
しかし、この関西の寮に限らず、他県の寮でも共用部である廊下に自転車を置く状況はよく目にします。私見ですが、一般の共同住宅と比べてその比率が高いように感じます。これは、同じ会社の仲間が集まる環境であることから、周囲に迷惑をかけることへの配慮が薄れやすい、または一人が置き始めると「じゃあ、私も」という同調意識が高まるためではないかと推測します。
錆びや盗難を避けるために自転車を廊下に置きたい気持ちは理解できますが、廊下は共用部であり、全ての建物利用者のために存在します。『自転車を端に置いているから人が通れるスペースは十分に確保されている』という考え方もあるかもしれません。しかし、防火管理を考える上で、「大地震発生後の火災」を想定することが重要です。
防災館(東京都墨田区)で震度7の地震を体験した際、想像を絶する横揺れのため、一歩も動けませんでした。このような状況で、自転車が倒れずにそのままの状態を保持することは不可能です。廊下を使用する方の中には、けがや病気で歩行が難しい方や、車いすを利用されている方が含まれているかもしれません。この場合、自転車が倒れて避難経路を塞ぐようなことがあれば、人命にかかわる事態を引き起こす可能性があることも否定できません。
また、建物の構造上、共用部内に自分だけが利用できるスペースが存在する場合があります。角部屋の玄関前のスペースなどがそれに該当しますが、このスペースに自転車を置いた場合、震災で自転車が倒れて玄関扉を塞ぐことになり、専有部に閉じ込められる可能性があります。この件に関しては、「防火管理者として危険な状態を放置しません」というテーマで記述されたコラムに詳細がありますので、参考にしてください。
もし、それでも他人に迷惑がかからなければ共用部に自転車を置いても問題ないと考える方がいるなら、マンションの管理規約の確認を強くお勧めします。自転車をマンション内に持ち込む行為は、移動の途中で共用部を損傷し、無駄な修繕を必要とする原因となり得ます。さらに、「隣の家が置くなら、自分も置いてもよい」という同調意識が秩序を悪化させ、結果として建物の資産価値を大きく下げる可能性があります。そのため、自転車に限らずとも、共用部の私物残置は管理規約や細則で禁止されている場合が多いです。
当社が防火管理者として廊下に自転車が置かれている状態を発見した場合、改善に向けた措置を講じ、その内容を報告書に記録します。具体的には、自転車の持ち主が明らかな場合、防火管理者であることを明示した上で、直接自転車の移動を依頼します。または、自転車の塗装に影響を与えないように、移動を促す警告文を貼る等の措置を取ります。
自転車の放置に対しては、警告文の掲示が主な対応策となりますが、この警告文が他の住人の目に触れることで、強い抑止効果が期待できます。