消火器の種類もいろいろ
「消火器」はほとんどの建物に設置されていますが、防火管理者の大切な業務の一つに、この「消火器」の自主点検があります。
一言に消火器と言ってもかなりの種類があります。珍しいものでいえば、ラッパのような大きなノズル(ホーン)がついている二酸化炭素消火器です。酸素濃度を希釈させて消火する仕組みのため、地階など閉鎖された空間での使用は禁じられており、使い方を誤ると窒息死する危険があります。
他にも、ひっくり返すと消火剤が出てしまう(転倒式)化学泡消火器などがありますが、これらの消火器を見かけることはほとんどありません。
皆さんが普段よく目にしているのは、「粉末(ABC)消火器」といわれるものです。
粉末消火器のメリットとデメリット
粉末(ABC)消火器は「粉末」とつくだけあって、リン酸アンモニウムを主成分とした「粉の薬剤」が充填されている消火器で、消火器本体に仕込まれたガスの圧力で消火薬剤を放出します。この消火薬剤は淡紅色(薄いピンク色)に着色することが法律で定められています。
粉末消火器のメリットは、
- 消火能力が高い(粉末が熱分解してイオンを生成、このイオンが燃焼の連鎖反応を強く抑制する)
- 普通火災(A火災)油火災(B火災)電気火災(C火災)に対応
- 安価(amazonで1本5千円程度)
があげられ、広く使用されている理由がここにあります。
一方でデメリットとして、
- 放射時間が短く、火元を正確に狙う必要性あり
- 電子機器に影響あり
があげられ、高価な電子機器に粉末が入り込んだ場合は、その後処理に数百万のコストがかかるというケースもあります。
粉末消火器の種類について
粉末消火器には『蓄圧式』と『加圧式』の2つの方式が存在します。
蓄圧式とは
蓄圧式粉末消火器は製造工程で容器内にガスを封入しており、常に容器内に圧力がかかっています。本体に『指示圧力計』という計測器がついているのが特徴で、指示圧力計を見れば消火器本体の圧力が正常か否かをすぐに見分けることができます。
当社が受託しているほとんどの物件(肌感覚で全体の8割)には、この蓄圧式粉末消火器が設置されています。
加圧式とは
加圧式粉末消火器は、蓄圧式とは異なり消火器本体に加圧している訳ではなく、本体内に設置された別の容器(加圧用ガス容器)にガスが封入してあり、このガス容器をレバー操作で破封し、その圧力で一気に消火剤を放出させる構造です。レバーに装着されている封ロックやOKマークと呼ばれる「使用済み表示装置」の存在が特徴です。その名のとおり、この装置が外れている=使用済みであることを意味します。
加圧式は蓄圧式と比べると流通している数自体も少なく、建物に設置されている消火器も年式が古いものが多いようです。
蓄圧式が粉末消火器の主流となる一番の理由は「安全性の高さ」と考えられます。消火器本体に致命的な損傷があるような状況で使用した場合、全体に圧力がかかっている『蓄圧式』は使用前にガスが抜けてしまい作動しないだけですが、本体内の容器を破封し一気にガスを放出させる『加圧式』は、その圧力に耐えかねた本体が破裂する危険性があります。
底が抜けて跳ねとんだスチール製の消火器があごに当たったことを想像すると、井上尚弥選手のアッパーカットを素手で食らうに匹敵する威力はあろうことが想像できます。
(誰でもできる)消火器の点検方法
半年に1度実施される法令点検は消防設備士や消防設備点検資格者が実施しますが、ここでは防火管理者や管理権原者(建物オーナー)など、専門的な技術や知識のない方が点検すべきポイントを説明します。なお、蓄圧式粉末消火器のチェックポイントに絞って説明しますが、一部例外はあるものの他の蓄圧式消火器にも「指示圧力計」が装着されていますし、消火器本体の材質も総じてステンレスかスチールであるため応用が効きます。
蓄圧式粉末消火器の自主点検ポイント
①消火器本体の外観に異常はないか
サビや凹み、キズがある消火器は、使用の際に破裂する危険性があります。交換してください。
②指示圧力計が正常値を示しているか
指示圧力計の示す消火器内の圧力が正常か否かは、「赤色の矢印」が「緑色の範囲内(使用圧力範囲)」を指しているか否かで分かります。「緑色の範囲外」を針が指している場合は圧力に異常があることを意味します。また、この値がゼロを示す場合は、指示圧力計が故障しているか、放射された使用済み消火器ということになります。
③安全栓の封シールが取れていないか
安全栓(黄色のピン)を留めてある封シールが剥がれたり切れたりしたものを、セロハンテープで代用している消火器を見たことがありますが、これはNGです。
封シールが剥がれている(切れている)ということは、安全栓が一度抜かれた可能性を示し、それは中身を放射した可能性があるということにもなるため、消火器の中を開けて点検しなければいけません。業者に対応してもらいましょう。
消火器の扱い方
消火器を持つときは細心の注意が必要です。
レバーを握って持ち上げる際は、グワッと握らずに下レバーをすくうように持ちましょう。
なにかの拍子で安全栓が外れ、レバーに備わるストッパーが倒れた状態で安全栓を戻してしまうと、パッとした見た目は通常の消火器と変わりません。
これをレバーごとグワッと握って持ち上げてしまうと、もちろん安全栓の機能は果たされることなく、例のピンクの粉末(消火薬剤)が視界を遮る勢いで容赦なく放出されてしまうため、その後の処理がとても大変なことになるのはご想像のとおりです。