今日はちょっと硬い話。
多くの建物やビルで必要な防火管理者ですが、その制度趣旨について詳しく知っている方は多くありません。
そこで制度とその流れについて書いてみました。
○防火管理者制度の根拠は「消防法第8条」
そもそも防火管理者制度とは、消防法第8条において、一定の規模以上の防火対象物(建物全体もそうですし、建物内の個々の店舗や事務所もそうですね)の管理について、権原を有する者(以下「管理権原者」といいます。平たくいうと、オーナーですね)に、防火管理者を選任し、消防計画の作成など、防火管理上必要な業務を行わせることを義務づけています。
そして防火管理者は、「防火」と名前がついている位ですから、「火」に対して最も注意を要する仕事です。
その建物や個々の部屋について、火元責任者(例えば中華料理屋がテナントに入っていれば、そのテナントの責任者)などに対して、必要な指示や指導をする「監督的な地位」を持っていなければ、防火管理を適切に遂行することはできません。
そして本来、防火管理者は「建物オーナー」や「実際に居住・利用している人」から選任しなければなりませんでした。
しかし、防火管理者の設置ができていないくても、また名前貸しだけで実際に必要な防火管理を行っていなくても、厳しく処罰されることはほとんどありませんでした。
制度自体が非常に形式的であった、のかもしれません。
あの事故が起こるまでは。
○防火管理の流れを変えた!?新宿・歌舞伎町の雑居ビル火災事故
それまであまり厳しいとは言えなかった防火管理制度について、流れが一変した事故があります。
平成13年9月に起こった、新宿・歌舞伎町の雑居ビルでの火災事故です。
44名もの命が奪われました。
この事故以降、防火管理者制度が、形式よりも実践を問われるように流れが変わります。
消防署による建物への査察や各種届出の催促が徹底されていきます。
特に商業ビルや雑居ビルなど不特定多数の人が出入りする建物では、単に防火管理者を置いているだけではだめで、防火管理者が防火体制の改善を行っているかが問われるようになりました。
その後、建物オーナーやテナントが防火管理をないがしろにしたために発生・拡大した火災での死亡事故が事例として積み重ねられ、行政としても防火管理について一層厳しく臨むようになります。
○建物全体の防火責任者「統括防火管理者制度」の誕生
そして、平成26年4月からは、あらたに「統括防火管理者制度」がスタートし、一定の条件を満たす建物は、建物全体の防火管理者と、事務所店舗部分の防火管理者を統括する責任者を新たに設置する義務が発生することになりました。
日本の法律は厳しくなることはあっても、緩くなることはそうそうありません。
今後も様々な事故事例が積み重ねられ、従来の制度では予防できないことがわかれば、新たな制度が付加されることになることは容易に想像がつきます。
これまで長い間、建物の防火管理は自前で行うことが定められていて、原則として防火管理者を第三者へお願いすることは認められていませんでした。
これは、「自らの生命、身体、財産は自らが守る」という防火管理の趣旨があります。これに基づくと、防火管理者は「建物やテナントにおいて防火管理上必要な業務を適切に遂行することができる管理的又は監督的な地位にある者」でなければならない、とされているのです。
しかし、平成16年3月の消防法令の改正により、
防火管理者の業務を第三者へ委託することができるようになりました。
防火管理者業務の外部委託とは、上図のように、防火対象物の管理権原者(建物オーナーやテナント)が外部の第三者を防火管理者へと選任し(消防署へ届出を行い)、その防火管理者が防火管理業務従事者などに指示し、現場での防火管理を実践させることを言います。
ただし、あくまで防火管理の基本は「自主防火体制」ですので、第三者への外部委託は「防火管理上必要な業務を適切に遂行することができない」と特別に認められる場合で、かつ管轄の消防署長が認める場合に限り適用できる、かなり厳しいものなのです。
○外部者だからこそ厳しく実践する防火管理者
建物やテナントのオーナーが「消防署から防火管理者を出すように言われているから」と、名義貸しを依頼されるケースがあります。しかし当社では「名義貸しのみ」で実際の防火管理を実践しないお仕事は一切お断りしています。
それは消防法の趣旨からして、外部委託はやむを得ない場合であり、かつプロとして報酬を得て行う以上、その責任(善良なる管理者の注意義務)は重くでしょう。
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以上です。
(イラストは総務庁消防庁からお借りしています)