消防法の“命令違反”と重い罰則から考える、防火管理の実務
「防火管理者は選任して届出も出している。だから大丈夫」__こう考えてしまう現場は少なくありません。
しかし消防法は、必要に応じて消防機関が命令を出し、命令に従わない場合には刑事罰(拘禁刑・罰金)が適用され得る仕組みを持っています。(一財)日本消防設備安全センターの「消防法の命令違反概要・罰則規定一覧」では、命令違反の類型ごとに罰則がわかりやすく整理されています。
《出典》消防法の命令違反概要・罰則規定一覧 /(一財)日本消防設備安全センター
https://www.fesc.or.jp/ihanzesei/data/pdf/batsukitei.pdf?utm_source=chatgpt.com
この一覧を読むと分かるのは、消防法の世界では「指導」より強い段階として命令があり、命令違反は“重い罰則”に直結し得る、ということです。つまり、防火管理者の選任はスタートであり、「選任して終わり」ではありません。
消防機関の改善命令に従わなかった場合、どんな罰則があり得るのか
一覧には、防火対象物に対する措置命令(改修・移転・除去等)に従わない場合として、2年以下の拘禁刑/200万円以下の罰金が示されています(違反行為:消防法第5条第1項、罰則規定:第39条の3の2)。
また、使用禁止・停止・制限等に関する措置命令に従わない場合は、3年以下の拘禁刑/300万円以下の罰金とされています(違反行為:第5条の2第1項、罰則規定:第39条の2の2)。
ここでいう命令は、たとえば次のような場面を想定すると分かりやすいでしょう。
■第5条(改修・移転・除去などの措置命令)のケース
廊下や階段に大量の荷物が常時置かれて避難経路が狭くなっている、あるいは防火戸の前に什器が置かれて機能しないといった状態が継続し、火災時に避難や延焼防止が妨げられると判断された場合に、「障害物を除去する」「配置を改める」「必要な改修を行う」といった是正を命じられるケースです。
■第5条の2(使用禁止・停止・制限などの命令)のケース
避難・防火上の危険が大きく、早急な対応が必要な状態として、避難経路が実質的に確保できない、多数の人が利用するのに安全対策が著しく不足しているなどと判断された場合に、「当該部分の使用を停止する」「営業を制限する」「使用を禁止する」といった、より強い命令が出され得るケースです。
これらは、防火対象物の安全確保に直結する命令であるがゆえに、罰則も強い設計です。こうした状態を放置せず、建物を適切な状態に保つために日常の運用を回す役割を担うのが防火管理者です。そして一覧表には、いわゆる設備面の命令だけでなく、防火管理の“実行”そのものを求める命令違反も明確に並んでいます。次に、その中身を紹介していきます。
特にチェックすべき:第8条第4項「防火管理業務適正執行命令」違反
一覧の中でも、管理権原者(所有者・管理者等)が特に押さえるべきなのが、消防法第8条第4項の「防火管理業務適正執行命令」です。この命令に従わなかった場合の罰則として、消防法第41条:1年以下の拘禁刑/100万円以下の罰金が示されています。
「1年以下の拘禁刑」というのは、実務上も相当に重い部類です。ここで重要なのは、これが「防火管理者を置いていない」場合だけの話ではなく、「防火管理者がいても、防火管理業務が適正に実行されていない」と判断されれば問題になり得る、という点です。
要するに、消防法は「選任(形式)」よりも「執行(実行)」を見ています。
また、同じ一覧では、第8条第4項(適正執行命令)違反について、第45条第3号(両罰:本条の罰金)が整理されています。
ここでいう両罰とは、従業者などの行為者が「法人(事業者)の業務に関して」命令違反等を行った場合、行為者を罰するだけでなく、法人側も(当該条文で定める範囲の)罰金の対象となり得るという規定です。つまり、「担当者がやっていなかった」で完結する話ではなく、法人としても罰金を科される可能性がある点が重要です。
なお、両罰は“体制不備そのもの”を直接処罰する条文というより、業務に関する違反が生じたときに法人も責任主体となり得るという意味合いであり、結果として、日頃から違反を起こさない運用・管理の整備が求められます。

「命令」まで進む前に:行政手続きの流れをイメージする
同資料には、消防用設備等が未設置の場合の基本的な流れとして、『立入検査 → 是正指導 → 警告 → 設備設置命令 → 使用停止命令 → 告発』という段階が図示されています。
ここで押さえたいのは、現場の感覚として「指導だから様子見で…」となりがちな局面でも、対応が進まなければ手続きが次の段階へ進んでいく、という点です。命令違反は刑事罰につながり得る以上、“命令が出てから動く”では間に合わない場面が生じ得ます。
では、こうした事態を防ぐために、防火管理者には「どのような業務」を行わせるべきなのでしょうか。
「防火管理をきちんと行いましょう」という掛け声だけでは、現場は回りません。重要なのは、防火管理者に対して、何を・どの頻度で・どの権限のもとで実施するのかを具体化し、日常業務として定着させることです。以下、実務上のポイントを具体的に整理していきます。
①消防計画:作成・届出だけでなく「実態に合わせて運用」する
防火管理者の業務の中でも特に重要なのが、「防火管理に係る消防計画」の作成と届出です。防火・防災管理者に選任された者は、消防計画を作成したうえで、所轄消防署へ届け出ることが求められる点も明確にされています。
消防計画は、各自治体のホームページ等で様式例や参考資料が公開されていることが多く、初めてでも取り組むことは可能です。もっとも、数枚で完結するような簡単なものではなく、建物の用途や規模、利用者の状況、テナント構成、夜間体制などは物件ごとに異なります。したがって、ひな形を当てはめるだけではなく、実際の防火対象物の実態に即した内容で作成することが重要です。
②訓練:消火・通報・避難を“消防計画に基づき”回す
防火管理者の役割の一つとして、消防計画に基づき、消火・通報・避難訓練を実施することが求められます。訓練は、防火管理の中でも特に「実施したかどうか」が問われやすい領域です。実施日、参加者、実施内容(手順・所要時間など)を記録し、課題と改善点を次回へ反映できる形で残しておくことが、結果として“適正に執行している”ことの説明力につながります。
もちろん、建物利用者全員の参加が理想ですが、実際には全員参加が実現できる現場は多くありません。そこで、訓練当日だけで終わらせず、防火・防災意識を高める機会として、不参加者向けに要点をまとめた資料の配布や周知を行うなど、参加率の前提に依存しない工夫を取り入れることが望まれます。
③避難施設の管理:廊下・階段・避難口を“塞がない”
廊下、階段、避難口等の避難上必要な施設の管理は、防火管理の実務として重要な管理項目です。現場で最も起きがちなのは「一時置き」の常態化です。什器、私物、自転車などで避難動線が狭まっていないかを、点検項目として定期化するのが現実的です。
④消防用設備等:消防用設備が「いつでも使える状態」かを維持する
消防用設備等の法定点検そのものは専門業者が実施することが一般的です。一方で、防火管理者には、消防用設備が正しく作動し、必要なときに確実に使用できる状態に保たれているかを日常的に管理する役割が残ります。
たとえば消火器であれば、安全栓の封(封切れ)の有無や本体のへこみ・腐食など、消火器そのものに異常がないかを確認することはもちろん、消火器の標識が適切に掲示されているか、消火器の前に私物や荷物が置かれていざというときにすぐ取り出せない状態になっていないか、といった「現場の使える状態」の維持が重要です。
⑤管理権原者が「権限と時間」を与える(最大の分岐点)
防火管理者に必要な業務を確実に行わせるには、実行に必要な権限(是正指示の出し方、記録保管のルール等)と、日常的に動けるだけの時間(体制)をあらかじめ担保することが不可欠です。
具体的には、現場での点検や確認の都度、問題の有無を報告させ、必要な改善や周知、関係者への指示につなげる__こうした運用が回って初めて、防火管理者は役割を果たせます。
「防火管理者に任せているつもり」でも、権限が曖昧だったり、業務に充てる時間が確保されていなかったりすると、結局は実行できず、“適正執行”が空洞化しがちです。そして何より、「選任して終わり」では、管理権原者としての責務を果たしたことにはなりません。
まとめ:重い罰則は「防火管理は“実行”が本体」というメッセージ
第8条第4項の適正執行命令違反が、1年以下の拘禁刑/100万円以下の罰金という重い罰則になっていることは、「防火管理は、選任して終わりではなく、実行こそが本体である」という制度設計の表れです。さらに両罰の整理がある以上、担当者任せにせず、事業者として防火管理が継続的に回る仕組みを整える必要があります。
また、防火管理者代行サービスは内容に幅があり、プランによっては、届出業務が中心で、訓練や日常点検は簡易な対応(または別途対応)となる場合もあります。重要なのは、価格だけで判断せず、現場確認や点検・記録まで含めて、どこまでを誰が担うのかを契約内容で確認することです。
防火管理者の責務には、現場へ定期的に赴き、防火管理に特化した観点で点検・確認を行わなければ十分に果たしにくいものが含まれます。そして、そうした業務が適切に実行されるよう体制を整え、実行を担保すること自体が、防火管理上の最高責任者である管理権原者の重要な責務でもあります。
当社の防火管理者外部委託サービスは、防火管理者として必要な業務をワンパッケージで提供するサービスです。日常の防火点検を実施し、その都度報告書を作成することで、防火管理者が適切に業務を行っていることの証跡を残します。これにより、防火管理を「選任の形式」ではなく「実行」として確実に運用できる体制づくりを支援します。









