いざという時あわてない!キッチンに潜む油火災の危険と備え
防火管理者のこづっきです!
消防訓練の際、参加者の方からよくいただく質問のひとつに、「台所で油に火がついてしまったら、どう対処すればよいのでしょうか?」というものがあります。特に、揚げ物の調理中に発生する「てんぷら油火災」は、家庭内で起こりやすい火災の代表例です。東京消防庁の管轄内だけでも、こうした油火災は毎年200件以上発生しているとされており、その危険性の高さがうかがえます。
てんぷら油火災の主な原因は、加熱中の油をそのまま放置してしまうことです。「少しの間だけ」とその場を離れたり、電話応対などで加熱中であることを忘れてしまうと、あっという間に発火温度に達してしまいます。
このような火災は、一瞬の油断から発生するうえ、対応を誤れば火が一気に広がり、命に関わる重大な事故につながるおそれもあります。だからこそ、正しい知識と冷静な対応が何よりも重要です。消防訓練の場では、こうした日常に潜む火災リスクへの理解を深めていただくことも、私たちの大きな目的のひとつです。
ここでは、いざというときに慌てないために知っておきたい「油火災の対処法と備え」について、5つのポイントに分けてご紹介します。

① 絶対に水をかけないこと!
油火災で最も危険な対応は、水をかけることです。
水をかけると油が激しく飛び散り、爆発的な炎が発生する可能性があります。台所にはシンクが近くにあるため、反射的に水を使ってしまいがちですが、これは非常に危険な行為です。絶対に行わないでください。
② 濡らして絞ったバスタオルの使用は慎重に
家庭でできる初期消火の手段として、「濡らして固く絞ったバスタオルを鍋にかぶせ、酸素を遮断する」という方法があります。
ただし、使用にあたっては次の点に十分注意が必要です。
- 水が滴るほど濡れていると逆効果(油に落ちて火柱が上がるおそれ)
- 燃えにくい綿製の厚手タオルを使用すること
- 投げつけずに、広げて静かにかぶせること
この方法は、落ち着いて対処できる状況であれば有効ですが、火勢が強く鍋から炎が上がっているような場合には準備の余裕がなく、無理をせず次の方法に移ることが賢明です。
③ 粉末消火器があれば積極的に使用を
マンションやビルの共用廊下などには、ABC粉末消火器が設置されていることが多く、これは油火災にも有効です。ただし、使用すると粉末が部屋中に飛び散り、テレビなどの電子機器にかかると故障の原因になることがあります。さらに、掃除も非常に大変です。
とはいえ、「掃除が大変かどうか」「電化製品が壊れるかどうか」よりも、「火災で命が危険にさらされるかどうか」が何よりも重要です。万一の際には、迷わず使うことをおすすめします。
消火器の種類や使い方については、当社の消防訓練で実践的に学んでいただけます。詳しくは『防火管理者の役割としてチェックしたい消火器の不備』というコラムもご参照ください。
④ 普段からの備えが命を守る
近年では、家庭向けに小型で扱いやすい中性強化液タイプの消火器や、てんぷら火災用の消火シートなども手軽に入手できるようになっています。価格も数千円程度からあり、キッチンに常備しておくと安心です。
- 強化液タイプの消火器:油火災に効果的で、後片付けも比較的容易
- 消火シート:鍋にかぶせるだけで酸素を遮断し、簡単に消火可能
備えについて詳しくは、『家庭用に小さな消火器を常備すべきか』というコラムもご参考ください。
⑤ 最も大切なのは「無理せず逃げる」こと
火の勢いが強く、初期消火に自信がない場合は、無理をせずただちに避難してください。ひとつの目安として「炎が自分の身長を超えている場合」は、すでに初期消火の範囲を超えており、消火活動は極めて危険です。特に、炎が天井に届いている状態では、天井裏に火が回り逃げ道を塞がれる危険があります。
また、煙が大量に発生している状況では、煙を吸い込むことで意識を失うリスクもあり、消火より避難を優先する必要があります。避難時のポイントは以下の3点です。
- 炎が背丈を超えていたら、すぐに初期消火をあきらめる(天井に達したら即避難)
- 煙から逃れるため、姿勢を低くして避難し、ドアは閉めて煙の拡散を防ぐ
- すぐに119番通報し、「油に火がついた」と正確に伝える
東京消防庁のホームページでは、油火災に水をかけた場合の危険性を実演した、非常にわかりやすい動画が紹介されています。ぜひ一度ご覧ください。
《出典》東京消防庁:「天ぷら油火災にご注意ください!」(動画)
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/fs/kanamati/page_00019.html
油火災は、正しい知識と備えがあれば被害を最小限に抑えることができます。
消防訓練の場でも繰り返しお伝えしていますが、
- 水をかけない
- 無理をしない
- 日頃から備えておく
この3点を忘れず、いざというときに落ち着いて行動できるよう、今一度、ご家庭のキッチンまわりの備えを見直してみてください。消火器や消火シートの設置場所、使用方法を家族全員で確認しておくことが、大切な命を守ることにつながります。
