共用部の私物撤去を依頼、その理由とは?
都内にある複合ビルの管理会社の担当者から、共用部に置かれた私物に関する質問があり、消防署に確認を行いました。このビルは特定一階段等防火対象物(以下、「特一階段」)に該当し、火災時のリスクが高いため、消防法上、防火管理の強化が求められています。
特一階段とは、地階または3階以上の階に特定用途のテナントがあり、避難階への直通階段が屋内に1箇所しかない防火対象物を指します。なお、屋内階段が2系統ある場合でも、区画壁等により2系統の階段を使用できない場合は「特一階段」とみなされます。
上記のような条件の建物では、防火管理が不十分な状態で火災が発生すると建物利用者の生命に重大な影響を及ぼす可能性が高いため、防火管理体制を確認する防火対象物点検が義務付けられます。
2001年に発生し44名の生命が奪われた「歌舞伎町ビル火災」の現場となった雑居ビルは、この特一階段に該当します。防火管理者の選任義務が無視され、消防訓練も実施されていない状況で、上階の唯一の逃げ道である階段に私物があふれ、防火戸が機能しなかったために煙が充満し、多くの犠牲者を出しました。歌舞伎町ビル火災については、「新宿・歌舞伎町ビル火災から学ぶ『防火戸の役割』」に詳しく載せていますので、参考にしてください。
今回問い合わせがあったビルの状況を詳しくお伝えすると、共用部である廊下に木製のサイドボードが置かれ、その上に植木鉢に入った観葉植物が飾られていました。このサイドボードはテナントの所有物ですが、上述の歌舞伎町ビルのように人が通れないような置き方はされておらず、窪んだスペースをうまく利用して置かれていました。
そのため、日常では通行に障害はありませんが、防火管理の観点から当社の点検スタッフがこのサイドボードに撤去や移動をお願いする警告文を貼ったところ、テナントから問い合わせを受けた管理会社の担当者から「緊急時に人が避難できるスペースが十分確保されているのに、なぜ警告文が貼られるのか」という趣旨の質問をいただきました。
当社の巡回防火点検では、廊下や階段などの避難経路の安全を確認しています。その際の判断基準は「大地震発生後の火災発生」です。会社主催の研修で防災館に行き、震度7(阪神淡路大震災を再現)を体験しましたが、震災直撃の恐ろしさを軽く見ていました。ここまでの激しい揺れだとは思わず、甘かった考えが一掃されました。
サイドボードのように頑丈な家具であっても、震災が起きてしまえば、金具で床に固定していない限り、ひとたまりもありません。ましてや、その上に置かれた植木鉢は確実に落ちるでしょう。また木製であることから、火災を拡大させる原因にもなりかねません。このため、共用部に私物を置かないよう徹底することが必要です。
お客様への正確な回答を用意し、当社の防火管理体制を再認識するために管轄の消防署に行きました。その結果、以下のような回答をいただきました。
- 有効なスペースの活用であっても、木製の家具を廊下に置くことは容認できない。
- 燃える素材であれば、そもそも共用部の避難障害に無関係で容認する判断はしない(傘やプラスチック製のビールケースのようなものでも同様)。
- 仮に金属製で燃える心配がなくとも、そもそも共用部に私物を置く行為自体が、消防法以外の法律や管理規約等で禁じられていると思われ、いずれにしても良しとする判断はしない。
消防署としては、避難障害の有無に関係なく、廊下などの共用部に私物を置くことは原則認めないという判断をしていました。最後に、消防署の予防課の担当者から当社の防火管理体制について感謝の言葉をいただきました。管理会社の担当者には、管轄消防署の判断を伝え、該当テナントへの説明をお願いしましたので、改善されることを期待します。
なお、共用部への私物等の残置禁止ですが、消防法に以下のような条文がありますのでご参考ください。
【消防法 第三条】
消防長(消防本部を置かない市町村においては、市町村長。第六章及び第三十五条の三の二を除き、以下同じ。)、消防署長その他の消防吏員は、屋外において火災の予防に危険であると認める行為者又は火災の予防に危険であると認める物件若しくは消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める物件の所有者、管理者若しくは占有者で権原を有する者に対して、次に掲げる必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
一 火遊び、喫煙、たき火、火を使用する設備若しくは器具(物件に限る。)又はその使用に際し火災の発生のおそれのある設備若しくは器具(物件に限る。)の使用その他これらに類する行為の禁止、停止若しくは制限又はこれらの行為を行う場合の消火準備
二 残火、取灰又は火粉の始末
三 危険物又は放置され、若しくはみだりに存置された燃焼のおそれのある物件の除去その他の処理
四 放置され、又はみだりに存置された物件(前号の物件を除く。)の整理又は除去
【消防法 第五条の三】
消防長、消防署長その他の消防吏員は、防火対象物において火災の予防に危険であると認める行為者又は火災の予防に危険であると認める物件若しくは消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める物件の所有者、管理者若しくは占有者で権原を有する者(特に緊急の必要があると認める場合においては、当該物件の所有者、管理者若しくは占有者又は当該防火対象物の関係者。次項において同じ。)に対して、第三条第一項各号に掲げる必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
《参照》e-GOV法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/