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「防火対象物点検」の履行はオーナーの責務~大阪・北新地の雑居ビル放火殺人から学ぶ

深山州 防火管理者の委託コラム
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京都アニメーション放火殺人事件に続く大惨事

代表で防火管理者の深山(みやま)です。僕ら防火管理に携わっている者にとって、なんともやるせない、虚無感に襲われた事件がありました。

2021年12月に、大阪駅からほど近い北新地にある雑居ビルで、4階のテナントであったクリニックの利用者が部屋に放火し、最終的に被疑者を含め27名が亡くなった「大阪・北新地ビル放火殺人事件」です。

大阪・北新地の雑居ビル放火殺人事件

2019年7月に起こった「京都アニメーション放火殺人事件」も同様に、多数の死者が出てしまった事件。ここでは犯人がどのような理由で放火に至ったのか、、、については門外漢なので割愛し、ここでは防火管理・防火対象物点検に従事する者ととしての視点で書きます。

北新地のビルは「防火管理者」を選任し「防火対象物点検」を実施すべき建物

法律上(消防法)、このビルは建物オーナーが統括防火管理者を選任し、統括防火管理者をして「消防訓練」や「日常の防火管理」を行わせる必要のある建物です。
そして、この防火管理者が法律に則り適正な防火管理を実現しているかをチェックするために、年1回、防火対象物点検資格者をして「防火対象物定期点検」を実施すべき建物です。

この「防火対象物定期点検」を行う必要のある雑居ビルに共通するのが、建物内にいる人が屋外へ平易に移動できるような避難経路(もっといえば「階段」)が、建物内に1箇所しかない点です。エレベーターは火災時には動かなくなるので、避難経路にカウントできません。
つまり、今回のような雑居ビルは、火災が起こる=避難が困難になりがち、という火災発生時にリスクが高くなる建物、といえます。言い方を変えると、避難経路が少ない雑居ビルは、普段から「なるべく火災を起こさせないようにすること」が一層求められる建物、といえます。

このような形状の建物のオーナーは、防火管理者を選任して防火管理に当たらせるだけでなく、その防火管理者が普段から法令に則って防火管理を継続できているかについて、ダブルチェック的な意味でさらに「年1点検」つまり「防火対象物点検」を行う必要がある、ということです。
この意味において、マンション(共同住宅)の防火管理のように、部屋から2方向(玄関→廊下、そしてバルコニー越し)へ逃げることができるような建物は、火災発生時に避難路が複数あり逃げやすい環境にあることから、防火対象物点検までは求めていません。

防火対象物定期点検制度ができたキッカケは「新宿・歌舞伎町のビル火災」

この、主に上述のような雑居ビルが対象となる「防火対象物定期点検」の制度が制定されたきっかけとなったのは、2001年9月に発生した「新宿・歌舞伎町ビル火災」事件でした。

この、日本一の繁華街のど真ん中にあった雑居ビルの構造が、まさに今回の北新地で起こった放火殺人事件のビルと同じ「避難経路が1つしかない」ものでした。
そして、この歌舞伎町のビルの場合、唯一の避難経路であった階段の途中にテナントが置いたであろう大量の私物が残置され階段を塞いでしまい、実質的に避難方法は「エレベーターのみ」となっていました。
しかも普段から消防設備の点検を怠り、消防訓練も行われず、、、という人災が重なり、火災の発見が遅れたり逃げ道を失ったりで、最悪の44名がなくなる大惨事となりました。

この事故の反省から、特に管理がずさんになりがちな繁華街の雑居ビルを中心に防火管理に対する意識が高まり、「防火管理者を置くだけでなく、その防火管理者が適正な防火管理の活動を履行し続けているかをチェックする役目」として、防火対象物定期点検の制度が制定されています。

せっかくの防火管理や防火対象物点検制度も無力だった「放火による一瞬の大火災」

今回の北新地の放火事件の場合、建物には防火管理者を選任し、日常の防火管理は適正に行われ、消防設備の点検も行われており、防火対象物点検も行われていたと思われ、建物オーナー側には「火災に備える」という点において責任はなかったようです。この意味において、防火管理者の制度や防火対象物定期点検制度は有効であった、といえます。

しかし、普段からの備えのために行ってきた防火管理者や防火対象物点検も、悪意を持った人間に唯一の避難経路であったフロア付近へ放火されてしまえば、大きな炎と煙で避難経路への道が絶たれてしまいます。そして他に逃げ場がない雑居ビルの構造上、この炎を一瞬で止める技術や、容易に脱出できるもう一つの避難路や避難グッズがないと、もうどうしようもない、、、というのが現実です。僕が冒頭に書いた「なんともやるせない、虚無感に襲われた」理由は、ここにあります。

今回の放火事件を契機に、雑居ビルへ新たに強力なスプリンクラー設備を設置したり新たな避難経路を設けたり、煙を屋外へ強力に排煙する装置の設置などを義務付ける法改正を検討することが考えられますが、すでに完成し相当な年月の経過した建物へ、新たに設備を付加するのは、物理的にも経済的にも現実的ではありません。もし建物のDX化が低コストでできる時代が来れば、不審者をビルの入口でシャットアウトするようなことが考えられますが、これもまだ時間がかかりそうです。

北新地の雑居ビル放火殺人事件の間取図

放火されることを想定して、なお防火管理者の観点でできることは「建物利用者への啓蒙」

このように、いくら防火管理者制度や防火対象物点検制度が充実してきているとはいえ、放火にはとても対応ができない以上、僕らにできることが他にないのか、、、京アニ放火事件のときに書いたコラムを再掲します。
僕に今できるのは、これくらいです。このコラムを再度読んで頂く、です。

コラム「京アニ事件を無駄にしない:放火に備えやってほしいこと」

とにかく建物の利用者には「このビルで万が一火災が起こったときに、炎より煙が危険であることを認識しつつ、いかに煙を吸わず、どう逃げるか」を強力にイメトレしておく、、、これに尽きます。骨折してでもビルから飛び降りる覚悟が、怖いけれど必要です。

目を瞑り、ビルの中で目の前に大きな炎が迫ってきた景色を想像し、煙を吸わないよう姿勢を低くしながら、とにかく逃げる手段をイメトレしてください。僕も、その時に本当にできる自信はありませんが、あえて炎に飛び込んで、炎の先にある避難口を目指すところまでイメトレしています。本当です。

最後に:防火対象物定期点検の履行は建物オーナーの責務だ

放火に「備える」にはあまりにも無策かもしれない「防火対象物定期点検」。でも、放火ではなく火災事故であれば、普段からの備えは十分有効に機能すると考えられますし、放火されたときであっても、いくらかでも延焼スピードが遅まったり、テナントに勤務する従業員が建物利用者(お客様)を避難誘導できるように意識づけする意味で、やはりとても大切な「備え」です。

最後に、当社が建物オーナーから防火対象物定期点検をお引き受けしたとき、主な業務のなかで特に気をつけていることを、専門用語を使わずに書いてみます。

①建物オーナー(が選任した防火管理者)が、日常の防火管理(当社で言えば月1点検)や消防訓練など、やるべきことをちゃんとやっているか、のチェック
→ここができていないと、放火されるような私物が避難階段に置かれていたりしたら、火災のとき目も当てられません。

②テナント(店舗や事務所など)の内部が避難しやすい環境にあるか
→お店の中がごちゃごちゃしていたら、火災のときに逃げ遅れてしまいます。

③テナントの内部で使われている建材や資材(カーテンや床ジュータン、暖簾など)に、火災が起こっても燃えにくい材料(防炎性能のある材料)を使っているか
→室内で火の回りが早くなると、それだけ死亡リスクが高くなります。

以上です。何の罪もない人が突然死を迎えるなんて不条理じゃないですか。これを少しでも防ぐために、僕らもできることからやりますので、皆さんも心がけをお願いします。

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