防火管理は「点検」だけでは足りない:記録と報告が守るもの
防火管理者には、定期的に現場へ赴き、防火管理上の問題がないかを確認する業務が求められます。また、防火管理で重要なのは、点検を単に「実施すること」だけではありません。点検結果を適切に「記録」し、その内容を管理権原者(建物オーナーなど、防火管理上の最高責任者)へ継続的に「報告」していくことが欠かせません。
なぜなら、どれほど日常的に防火管理を徹底していたとしても、放火を含め、火災リスクを完全にゼロにできる建物は存在しないからです。万一、防ぎようのない火災が発生し、特に人的被害が生じた場合、必ず問われるのは「防火管理者が適切に選任され、必要な業務が継続して実施されていたか」という点です。
その際に重要な意味を持つのが、日々の防火管理を着実に行ってきた証拠となる「防火管理業務の記録」と「管理権原者への報告」です。これらが継続的に残されているかどうかが、防火管理体制の実態を示す判断材料となります。
当社では、点検スタッフが現地でスマートフォンを操作しながら登録することで、点検内容が即座に記録され、報告書の土台が自動で整う仕組みを従来から運用してきました。今回、そのシステムを大幅に見直してバージョンアップを行い、新しい巡回防火点検システムとして完成させています。点検の確実性と記録・報告の精度をさらに高めることで、防火管理業務をより実効性のあるものとする体制が整いました。
本記事では、この新しい点検システムの考え方や仕組み、そして導入によってお客様にどのようなメリットが生まれるのかについて、できるだけわかりやすく解説します。
より詳しい制度の全体像や、防火管理者・管理権原者の役割、消防計画の考え方などを一次情報で確認したい方は、東京消防庁が公開している「防火管理 実践ガイド」もあわせてご参照ください。防火管理の基本を整理するのに役立ち、日々の運用や体制づくりの理解にもつながります。
東京消防庁:防火管理 実践ガイド
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/index.html
点検は「現地で完結」が基本。スマホ操作と同時に報告書が自動作成
新しい巡回防火点検システムでは、点検スタッフが担当物件に到着した後、システムにログインし、点検を進めながら必要な項目を選択し、写真を撮影・登録していきます。現地での点検作業と同時に情報を入力していく運用です。
この「点検しながらその場で登録する」という流れこそが、報告書の品質を安定させる大きなポイントです。現地から送信されたデータをもとに、報告書の形式が自動的に整うため、点検結果が担当者ごとにばらつきにくく、記載漏れのリスクも抑えられます。
また、新システム内で起動したカメラで撮影した写真は、スマートフォン本体には保存されない仕様としており、情報の取り扱いにおいても安心できるよう配慮しています。なお、点検スタッフが登録した内容が、そのままお客様に提出されるわけではありません。当社では、送信された点検データを本社で受け取り、有資格者を含む体制で内容を確認しています。
防火管理は、単に写真を撮って終わる業務ではなく、消防法の考え方や建物の運用実態、潜在的な危険性を踏まえた判断が求められます。現場で確認した状況が「不適」なのか「経過観察」なのか、またどの分類で指摘すべきかは、経験と基準の共有が不可欠です。
そこで当社では、現地での入力を起点としながら、本社側で内容の整合性を確認し、必要に応じて追加確認を行うことで、毎月の報告としての品質を担保しています。

現場と本社をつなぐ。巡回防火点検システム刷新のポイント
新システムは、単に導入して終わりというものではなく、日々の運用に耐えられるかどうかが最も重要です。実際の現場では、撮影方法の癖や入力の手間といった個人差に加え、点検スタッフ同士や本社との意思疎通の難しさなど、運用を続ける中でさまざまな課題が必ず生じます。
今回の刷新では、こうした実務上の課題を踏まえ、次の点を重視しました。
- 写真や入力のルールを、システム側で自然に誘導できること
- 点検スタッフごとの操作負担や表現のばらつきを、できる限り抑えること
- 入力項目に漏れがある状態では、業務を完了できない仕様とすること
- 現地スタッフと本社とのコミュニケーションを、システム上で円滑に行えるようにすること
- 下見時の情報や本社からの指示・注意事項を、点検前に容易に確認できること
- 報告書としての仕上がりが整っており、全体として見やすいこと
具体的には、前回点検時に指摘された内容を、今回の点検でも適切に引き継げる仕組みを整えています。
例えば、前回の点検で「消火器の不備」を指摘し、その後に消火器の入れ替えが行われていた場合、点検スタッフが改善状況をシステム上に入力することで、「前回指摘事項が解消された」という事実が明確に記録されます。
これにより、本社のチェック担当者は、当該指摘が単なる見落としや指摘漏れではなく、実際に改善が行われた結果であることを即座に把握できます。前回指摘内容と今回の点検結果を突き合わせるための個別確認や問い合わせが減り、確認作業の効率化と報告内容の信頼性向上につながっています。
また、従前のシステムは、もともと管理会社向けに開発されたツールを改良し、当社の運用に合わせて使ってきた経緯があります。もちろん、Excelで報告書を作成していた時代と比べれば、業務効率も品質も大きく向上し、その効果は圧倒的でした。
一方で、土台が他用途の設計である以上、現場での細かな負担や、報告書の見せ方・伝わり方の面には、どうしても限界が残っていました。そこで今回の新システムは、当社の防火管理者業務のためにゼロから設計しました。点検の開始から終了、指摘登録、外観写真の登録、本社への伝言、送信まで、巡回防火点検の一連の流れを前提に、画面構成と操作導線を組み立てています。
その結果、点検スタッフは点検に集中しながら迷わず登録できるようになり、お客様にとっても毎月の状況を追いやすい、見やすい報告につながっています。
命を守るための巡回点検:重視する3つの視点
当社が目指すのは、日本一確実な点検です。これは派手な表現ではなく、「建物利用者の命を守る」という防火管理の本質から導いた目標です。
現実には、防火管理者の選任すら徹底されていない建物も少なくありません。その結果、火災時に建物利用者が迅速に避難できず死傷につながるリスクや、火災後に管理権原者が日常の防火管理義務を問われるリスクが、今も確かに存在します。
だからこそ、管理権原者が法律に基づいて防火管理者を選任するだけで終わらせず、防火管理者に必要な業務を確実に実施させることが重要になります。中でも、日常の巡回点検は「実施している形だけ整える」ものでは意味がありません。防火管理上の危険な状況を見つけたときに、「なんとなく見過ごす」「見て見ぬふりをする」ことこそが最大のリスクになります。
当社の点検では、特に次の3点を重視しています。
1)避難経路は確保されているか
共用部の廊下や階段に物品が残置されていないかを確認し、避難の妨げとなる状況を指摘します。特に、地震直後に火災が起こり、停電で視界が悪い中で避難する状況を想定すると、物が倒れても一定の通路幅が確保できる状態が望ましいと考えています。
2)火の元の取り扱いに問題はないか
「明確に禁煙と定められた場所での喫煙」や「吸い殻の不適切な始末」など、危険性が高い状況は重点的に確認します。また、ゴミの放置についても、延焼や放火のリスクが高いと判断した場合には指摘します。
3)設備は正常に使用できる状態か
消火器や消火栓、連結送水管、誘導灯などの劣化・破損の有無に加え、設備の前に障害物が置かれていないかを確認します。「設備がある」だけでは意味がなく、いざというときに「使える状態」になっていることが重要です。
防火管理は、何かが起きてから整えるのでは遅い分野です。日常の点検と記録、そして継続的な報告の積み重ねが、建物の安全性を底上げすると考えています。当社はこれからも、現場とシステムの両面から点検品質の向上に取り組んでいきます。


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