大阪・道頓堀で発生した悲惨な火災事故が示す、ベランダ火災の教訓
2025年8月18日、大阪市中央区・道頓堀付近で雑居ビルの火災が発生し、2名の消防職員が殉職するという痛ましい出来事がありました。尊い命を失われたお二人のご冥福を心よりお祈りいたします。
この火災については、一昨年の立ち入り検査で、年2回義務付けられている消防訓練が実施されていなかったことを含め、6項目の法令違反が確認され、行政指導を受けていたことも報道されています。そうした経緯を踏まえ、この件については改めてコラムとして取り上げ、深掘りしていきたいと考えています。
一方、ニュース映像で映し出された「外壁を縦方向に激しく燃え上がる炎」を見て、恐怖を覚えた方も多かったのではないでしょうか。こうした光景は特別な建物だけでなく、共同住宅や商業ビルでも起こり得ます。
そこで今回は、この事故に関連するテーマのひとつとして、ベランダからの火災延焼を防ぐ方法に注目してみたいと思います。なお、本コラムでは「バルコニー」も含めて、表現は「ベランダ」で統一します。
ベランダで火災が起こる主な原因
火災というと「台所のガスコンロ」や「ストーブ周り」を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし実際には、ベランダ火災が発生源や延焼の経路になるケースも少なくありません。共同住宅や商業ビルにおいて、ベランダは避難経路として重要な役割を果たす一方で、以下のような火災リスクを抱えています。
洗濯物や布団からの出火
干していた洗濯物や布団に火が燃え移る事例は少なくありません。代表的な原因は、隣室や上階からの「たばこの投げ捨て火種」、花火や落下物の火の粉、そして直射日光がガラス片やペットボトル、水入り容器に当たりレンズのように光を集めて発火する「収れん火災」です。
特に雨が少なく乾燥しやすい時期は、わずかな火種で一気に燃え広がり、室内へ延焼する危険があります。
ベランダに置いた可燃物
段ボール、古新聞、発泡スチロールなどを一時的に置いてしまうご家庭も少なくありません。しかし、これらは非常に燃えやすく、ひとたび火がつけば瞬く間に炎が広がり、大きな延焼の原因になります。特に段ボールや新聞紙は風で舞いやすく、燃えた状態で飛び散るとさらに被害を拡大させる恐れがあります。
また、発泡スチロールやプラスチック製品は燃えると大量の煙や有毒ガスを発生させるため、避難の妨げとなり命に関わる危険もあります。ちょっとした火種でも重大な火災につながりかねないため、火事延焼防止の観点からも、ベランダに可燃物を放置することは極めて危険だといえます。
電気機器の使用
ベランダで電動工具や扇風機などの電気機器を使用するケースもあります。しかし屋外用ではない機器を使うと、雨や湿気による漏電や、直射日光による過熱から出火する恐れがあります。さらに延長コードを長時間屋外で使用すると、被覆の劣化や過電流で発熱し、火災リスクが高まります。
近隣からのもらい火
隣戸や下階からの火災がベランダ伝いに延焼するケースもあります。ベランダは風の通り道であり、火の粉が舞い込みやすく、炎が吹き上がると一気に上階へ広がります。外壁材や設置物が可燃性の場合、その燃焼がさらに延焼を加速させます。
ベランダ火災のリスクについては、東京消防庁の解説をもとに長谷工グループがまとめた記事「マンション住民のための火災予防と避難の実践方法」でも紹介されています。公的機関の視点から学べる内容ですので、ぜひ参考にしてみてください。
《出典》MANSION⁺ 東京消防庁が伝授! マンション住民のための火災予防と避難の実践方法
https://www.haseko.co.jp/mansionplus/journal/syouboukasai1_231129.html?utm_source=chatgpt.com

ベランダ火災が危険な理由
一見すると開放的で安全そうに思えるベランダですが、火災が発生した際には室内以上に危険な場所となることがあります。延焼を加速させたり、避難を困難にしたりする要因が重なっており、注意が必要です。ここでは、特に押さえておきたいベランダ火災の危険性を整理します。
延焼スピードが速い
風通しの良いベランダは、一度火がつくと室内以上に燃え広がりやすい構造をしています。炎は強風にあおられて瞬く間に拡大し、隣の住戸や上階へ延焼する危険があります。特に大阪・道頓堀火災のように建物が密集するビル群や共同住宅では、火が複数のフロアへ次々と広がり、大規模火災へと発展するリスクが一層高まります。
避難経路が塞がれる
ベランダは非常時の避難経路として設計されている建物が多くあります。しかし、火災が発生するとそのベランダ自体が炎や煙に包まれ、かえって退路を失う危険があります。避難はしごや隣戸との連絡通路が設けられていても、そこに到達する前に火勢に阻まれてしまうケースも十分に考えられます。
火災報知設備が作動しにくい
室内の火災は、煙感知器や熱感知器が比較的早く反応しますが、ベランダにはこれらが設置されていない場合が多く、発見が遅れやすいのが実情です。その結果、初期消火や通報が間に合わず、気づいたときにはすでに火勢が拡大し、大規模な火災へと発展しているケースも少なくありません。
ベランダからの火災事故を防ぐ具体的な方法
ベランダは時として、ほんの小さな油断が延焼を招き、場合によっては建物全体を危険にさらすこともあります。さらに、非常時には大切な避難経路となる場所でもあるため、常に安全を確保し、その役割を損なわないようにしておくことが欠かせません。
ここでは、ベランダ火災を未然に防ぎ、延焼を防止するとともに、避難経路としての機能を守るために実践できる具体的な方法を紹介します。
ベランダに物を置かない
延焼防止の基本は「物置化しないこと」です。段ボールや新聞紙、プラスチック製品などの可燃物は、ちょっとした火種でも燃え上がりやすく、延焼の大きな要因となります。とくに段ボールや紙類は風に乗って燃え広がりやすいため危険です。ベランダは避難経路でもあるため、普段から整理整頓し、必要最低限の利用にとどめましょう。
洗濯物・布団は夜間や強風時に放置しない
「洗濯物火災」は、タバコの投げ捨てや飛んできた火の粉が原因で発生するケースが多く報告されています。特に夜間や強風の日は、周囲の目が届きにくく火種に気づくのが遅れるため、危険性が高まります。できれば夜間の外干しは控え、室内干しや浴室乾燥機を取り入れると、延焼防止にもつながります。
喫煙や火気を持ち込まない
ベランダでの喫煙は、灰皿の管理が不十分になりやすく、火種が残って延焼の原因になることがあります。こうした背景から、近年はマンション規約でベランダ喫煙を禁止するケースも増えています。火事延焼防止のためには、ベランダに火気そのものを持ち込まないのが最も確実で安心できる対策です。
避難経路を塞がない
プランターや物置などを通路に置いてしまうと、避難経路が塞がれ、火災時に逃げ遅れる大きな原因となります。特に避難はしごの上や降下スペースに物を置いてしまうと、いざというときに使用できず、命に関わる危険があります。ベランダは「自分だけの空間」ではなく、「建物全体の避難路」という役割も担っています。そのことを意識し、日頃から常に安全に通行できる状態を保つようにしましょう。
【まとめ】ベランダ火災を防ぐための注意点と安全対策
ベランダは洗濯物を干すなど、日常生活で欠かせない空間である一方、非常時には大切な避難経路としての役割も担っています。しかしその一方で、火災が発生・延焼しやすい危険な場所でもあることを忘れてはいけません。
- 飛んできた火の粉や投げ捨てられたタバコで、洗濯物などが燃えてしまう恐れがある
- 段ボールや新聞紙といった可燃物を一時的に置くことは、延焼の大きな原因となり得る
- ベランダでの喫煙や火気の持ち込みは、命に関わる火災へ直結する可能性がある
こうした危険要因を避けるだけでも、ベランダ火災のリスクは大幅に減らすことができます。さらに、ベランダは「個人のスペース」であると同時に「建物全体の避難経路」という重要な役割を持つことを常に意識することが大切です。
ベランダを避難経路として安全に保つ重要性については、「火災時の避難の切り札:ベランダに私物は置かないで!」というコラムでも詳しく解説されていますので、併せて参考にしてください。
なお、当社の【防火管理者外部委託サービス】では、毎月実施する巡回防火点検の際に、可能な範囲でベランダの状況も確認しています。さらに、大阪・道頓堀火災で問題となっている「消防訓練の未実施」についても、当社では確実に毎年実施いたします。安心・安全のために、ぜひご検討ください。
