火災時における管理権原者の法的責任と防火管理体制の重要性について
防火管理体制の整備は、日常的な防火管理業務の実施を含め、万が一火災が発生した際に、管理権原者(建物オーナーや事業主等)が法的責任を問われることを回避するために非常に重要です。
防火管理上の最高責任者である「管理権原者」は、会社で言うところの“社長”の立場に相当し、防火管理者は“防火管理事業部の部長”のような存在と考えます。企業で重大な不祥事が発生した際、部長のみが責任を問われ、社長が無関係であるとは考えづらいのと同様に、防火管理者に任せきりにすることはできません。
そのため、管理権原者には防火管理者を選任するだけでなく、その職責を確実に果たさせる義務があり、業務の実施状況を適切に把握・管理する責任があります。以下では、万が一の火災事故に備えるうえで重要となる、管理権原者のリスクマネジメントのあり方について詳しく解説します。
「もしもの時」に備える、防火管理体制の整備と記録
建物の用途や規模に関わらず、すべての施設には放火や失火などによる火災リスクが常に存在しています。日頃から防火に十分配慮していても、万が一火災が発生し、人命に関わる重大事故に発展した場合には、防火管理者の選任を含め、防火管理体制が適切に機能していたかが問われます。
こうした場面において、消防計画の作成・届出がなされ、当該計画に基づいて日常的な防火管理が行われていたこと、そしてそれを示す記録(報告書等)が整備されていれば、管理権原者が法的責任を問われる可能性は基本的にありません。
一方、防火管理者が未選任だったり、防火管理業務が実施されていなかった場合には、管理権原者に対し刑事責任が問われるケースもあります。実際に2001年に発生した「歌舞伎町ビル火災」では、防火管理上の不備により44名が死亡し、管理権原者(建物・テナントのオーナー等)に対して禁錮2~3年の実刑判決が下されました。
このように、防火管理体制の整備と記録の保管は、管理権原者自身の身を守るリスクマネジメントとして不可欠です。
管理権原者と防火管理者の責務について
東京消防庁のホームページでは、防火管理者の責務が次のように示されています。
《防火管理者の責務》(消防法施行令第3条の2一部抜粋)
- 「防火管理に係る消防計画」の作成・届出
- 消火、通報及び避難の訓練を実施
- 消防用設備等の点検・整備
- 火気の使用又は取扱いに関する監督
- 避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理
- 収容人員の管理
- その他防火管理上必要な業務
- 必要に応じて管理権原者に指示を求め、誠実に職務を遂行する
《出典》東京消防庁「管理権原者とは・防火管理者とは」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/p03.html
管理権原者の主な責務は、防火管理者を適切に選任し、その業務遂行状況を監督することです。単に選任しただけでは不十分であり、業務がきちんと実施されているかを日々確認・管理することが求められます。
一方、防火管理者の業務は上記のとおり多岐にわたりますが、主に次の3点に整理できます。
- 消防計画等の必要書類の作成・届出
- 消防訓練の実施(年1~2回)
- 日常的な防火管理業務の実施
このうち「日常的な防火管理業務」については、法令上に具体的な実施内容の明示はありません。そこで当社では、事業開始にあたり総務省消防庁・東京消防庁・各消防署への綿密なヒアリングを行い、その結果をもとに、毎月の現地点検を基本とし、防火上必要な対応をその都度実施し、証跡として報告書を作成するという体制を構築しました。
これらの内容は消防計画にも反映させており、管理権原者の責務を果たすために、実効性のある防火管理を担保しています。当社のビジネスモデル構築の背景については、「代表の『恥ずかしい』ごあいさつ」もぜひご覧ください。

消防法における管理権原者の義務違反と罰則
消防法では、管理権原者に対して以下のような義務違反に対する罰則が定められています。
違反内容 | 関連法令 | 罰則内容 |
防火管理者の未選任 | 消防法第42条第1項第1号 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
選任・解任届の未提出 | 消防法第44条第8号 | 30万円以下の罰金または拘留 |
防火管理業務を実施させなかった場合 | 消防法第41条第1項第2号 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
現実には、このような違反状態であっても、直ちに罰則が科されるわけではありません。
しかし、これらの罰則は、管理権原者が担う責任の重大さを明確に示すものであり、防火管理体制の適切な構築と、日常的な運用の確実性が強く求められていることを意味しています。
火災による人的・物的被害を最小限に抑えるためには、日頃からの防火管理体制の整備が不可欠です。管理権原者は、防火管理者を「名ばかり」で選任するのではなく、実際にその業務が適正に実施されているかを監督する責任があります。これは、重大な火災事故や法的リスクから自らを守るための、極めて重要なステップです。
なお、防火管理者の外部委託サービスを提供する企業の中には、実質的に業務を行っていない“名義貸し”に近い運用を行っているケースも見受けられます。「費用が安い」という理由だけでそうした業者を選んでしまうと、いざというときに管理権原者自身が責任を問われかねませんので、慎重にご判断ください。
この点については、別コラム『安さだけで選ぶのは危険?防火管理者代行サービス徹底解説』でも詳しく解説しておりますので、併せてご覧いただければ幸いです。当社では、管理権原者の皆様が安心して責務を果たせるよう、豊富な実績と確かな体制でサポートしております。
防火管理体制にご不安のある方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
