雑居ビルの防火管理:単一管理権原と複数管理権原の違いと選択のポイント
当社では、テナントが入居する複合用途の建物、いわゆる雑居ビルからの防火管理に関するお問い合わせに対し、「単一管理権原」で届出が行われている場合、建物オーナーの負担軽減と責任範囲の明確化を目的として、「複数管理権原」への変更を提案しています。複合用途の建物には複数のテナントが入居しているため、防火管理において責任範囲や役割分担を明確にすることが非常に重要です。しかし、一部の建物オーナーの中には、単一管理権原と複数管理権原の違いを十分に理解せず、単一管理権原で届出を行っているケースが見受けられます。単一管理権原での届出の場合、建物オーナーは共用部だけでなく各テナント内の防火管理の責任も負う必要があるという事実を把握していないケースが非常に多いのです。このような理解不足は、建物全体の防火管理リスクを高める原因にもなりかねません。以下に、それぞれの体制の特徴やメリット・デメリットについて詳しく解説します。
単一管理権原のメリットとデメリット
単一管理権原は、建物全体を1人の管理権原者(通常は建物オーナー)が管理し、テナント部分を含むすべての防火管理の最終責任を担う体制です。この体制のメリットは、各テナントごとに個別の防火管理者を選任する必要がなく、建物全体として統一的な防火管理が可能になる点です。また、テナントごとの防火管理者未選任によるリスクが低減されるため、防火体制の一元管理が期待できます。テナントでの管理不備や選任漏れが発生しにくいため、効率的な防火管理が実現しやすくなります。
一方で、デメリットとしては、各テナント内で発生する防火管理上の不備や過失がすべて建物オーナーの責任範囲に含まれるため、テナントでの不手際によって火災が発生した場合、最終的に建物オーナーに責任が及ぶリスクがある点が挙げられます。これは非常に重要なポイントです。そのため、建物オーナーは共用部分だけでなく、テナント内の防火管理にも積極的に関与し、選任した防火管理者と協力して防火活動を円滑に進めることが求められます。例えば、各テナント内の消火器の設置状況や避難経路の確保状況の確認など、オーナーとして直接関与すべき場面が増えることが考えられますが、その結果として、建物オーナーの管理負担が増加する点にも留意が必要です。
複数管理権原のメリットとデメリット
複数管理権原の体制では、各テナントがそれぞれ防火管理者を定め、自らのエリア内で防火管理を実施します。共用部分であるテナント以外の区域については建物オーナーが管理権原者として責任を負いますが、テナント内については各テナントの管理権原者(事業主など)が防火管理者を選任し、責任を分担する形です。この体制のメリットは、テナントが自分のエリアの防火管理責任を担うため、建物オーナーは共用部分の管理に専念できることです。責任範囲が明確になるため、特にテナント内の火災リスクについては各テナントが主体的に防火管理を行うため、建物オーナーの負担が軽減され、安心して管理に集中できる体制といえます。
一方、デメリットとしては、各テナントが防火管理者を選任しなかったり、消防計画が作成・届出されなかった場合、建物全体の防火体制が不十分になるリスクが生じる可能性が挙げられます。また、当社としてはデメリットとは考えていませんが、事実として、単一管理権原と比べて管理体制が多層的になりやすい面があります。具体的には、共用部分の防火管理者に加え、建物全体を統括する統括防火管理者を選任し、全体の消防計画を作成・届出する必要が生じる場合があります。
これらの体制を踏まえ、建物オーナーには、自身の責任範囲や管理体制について十分に理解し、適切な判断をしていただくことが求められます。特に、単一管理権原を選択する場合、テナント内の防火管理も1人の管理権原者と防火管理者の役割でしっかりとカバーできるかどうかを事前に慎重に検討することが重要です。この選択が将来的に建物全体の防火安全に影響を与える可能性があるため、建物オーナー自身が責任を持って検討することが必要です。テナントごとに異なるニーズや利用状況がある中で、一元的に管理することが本当に実効性があるのか、責任を分散する必要がないのか、という点も含めた十分な判断が求められます。
当社では、単一管理権原を選択された場合であっても、建物オーナーが安心して管理を行えるよう、テナント内の防火管理体制を定期的にチェックするサポート体制を整えています。このサポート体制には、建物オーナーが管理しきれない部分についてもフォローし、防火管理の状況を確認するための定期点検や報告を行うなど、幅広い支援を含んでいます。しかしながら、日々の防火管理については、テナント自身が自らの責任において対応することが、結果的には最も効果的で安全な体制だと当社は考えています。テナントが自らの管理体制に責任を持ち、防火対策を意識して行動することが、建物全体の安全性を高めることにつながるためです。
また、統括防火管理者が必要な場合には、当社の防火管理者外部委託サービスをご利用いただくことで、統括防火管理者としての業務も安心してお任せいただけます。当社は、統括防火管理者として必要な業務を確実に実施し、入居テナントを含めた防火体制を維持するサポートを行います。具体的には、定期的な消防訓練の実施、消防計画の作成と提出、訓練結果のフィードバックなどを通じて、建物全体の防火安全をサポートします。テナントの防火意識を高めるために、訓練の際には実践的なシナリオを用い、緊急時の対応能力を向上させる取り組みも行っています。建物オーナーが安心して管理に専念できるよう、当社が全力で支援いたします。