消防訓練を行う目的とは
消防訓練の実施は防火管理者の責務の一つであり、建物の用途によって年に1~2回以上実施する必要があります。また、消防訓練を実施するだけでは不十分であり、原則として消防訓練を実施する前に管轄の消防署に所定の書類を提出しなければなりません。例えば、東京消防庁であれば「自衛消防訓練通知書」がそれに該当します。自治体によっては、郵送や窓口に行かなくてもWEB上で申請できる場合もあります。また、消防訓練実施後にも報告が必要な自治体もありますので、詳しくは管轄の消防署のホームページ等を参考にしてください。
消防訓練は、「避難訓練」「通報訓練」「消火訓練」の3つを実施することが義務付けられています。これらの訓練を行う主な目的は、以下の通りです。
火災発生時の迅速な対応
実際の火災が発生した際に速やかに行動できるようにするためには、事前の消防訓練が不可欠です。消防訓練を通じて、安全に避難し、正確に119番通報する方法を学ぶことができます。また、初期消火が可能であれば、被害を最小限に食い止めることができます。ほとんどの建物には消火器が設置されていますが、いざという時に慌てずに使用できるかどうかが、初期消火の成功率を高める鍵となります。
パニックの防止
火災が発生すると、動揺と混乱によって適切な避難行動や通報が遅れる可能性があります。しかし、消防訓練を重ねることで、緊急時に落ち着いて対処する能力を養うことができます。さらに、訓練を通じて他の人との協力やコミュニケーションの方法も学ぶことができ、集団での避難時に混乱を最小限に抑えることができます。その結果、全員が安全に避難できる確率が高まります。
防火に対する意識の向上
日常生活の中で防火意識を持つことは火災を未然に防ぐために非常に重要であり、消防訓練を通じてその意義を再確認することができます。訓練では、適切な避難方法や初期消火の有効性を詳しく学ぶことで、日常生活において避難経路となる廊下や階段に物品を放置することのリスクを理解し、消防設備が正常に使える状態であるかを確認する習慣を身につけることができます。さらに、周囲の人々と情報を共有し、一体となって防火対策を進める機会ともなります。
法令の遵守
消防訓練の実施は法律で義務付けられており、これを遵守することで社会的責任を果たすことができます。定められた回数以上の消防訓練を実施することは、従業員や建物利用者の生命を守ることのみならず、企業の信頼性を高めるためにも欠かせません。また、法的な要件を満たすことで、企業監査や消防査察においても安心して対応できるようになります。さらに、法令遵守の意識を持つことは、日常業務の中でも高い規律を維持し、他の安全対策やコンプライアンスの向上にも寄与します。このように、消防訓練を通じた法令の遵守は、多方面において重要な役割を果たしています。
消防訓練の具体的な実施方法とは
防火管理者の重要な責務に「消防訓練の実施」が含まれていることは理解されていても、「具体的にどのようなステップを踏んで運営すればいいのか分からない」という疑問を持つ方は少なくありません。実際、防火管理者講習には、防火管理者に必要な知識や消火栓などの消防設備を操作するスキルを取得する時間は含まれていますが、消防訓練をどのように運営すべきかのノウハウは含まれていません。
消防訓練を運営するためには、当日までのスケジュール設定、消防署への届出書類の作成・届出、参加者への案内用の掲示物の準備、消防訓練の説明に必要な資料作成、訓練当日の指示の出し方や進行方法の確認などが必要となります。しかし、これらのノウハウは講習では十分にカバーされていないのが現実です。そのため、多くの防火管理者は訓練の具体的な運営方法について自分で調べ、計画を立てる必要があります。
実地消防訓練の流れは概ね次の通りです。
- 消防訓練の実施日、実施内容を決める
- 消防署へ消防訓練実施の旨を所定の書類で届け出る
- 消防訓練実施日をお知らせし、参加者を募る
- 消防訓練を実施する
各項目について詳しく説明をします。
消防訓練の実施日、実施内容を決める
消防訓練の実施内容を決める際、特にこだわりがない場合は、「避難訓練」「通報訓練」「消火訓練」の3つの訓練を最低限として実施することで問題ありません。この機会を住人のコミュニケーションを深めるチャンスと捉え、祭りや炊き出しなどのイベントを併せて実施するのも良いでしょう。また、あらかじめ参加人数を予測し、危険の伴わない集合場所を定めることも重要です。
管轄の消防署へ事前に届け出る
前述の通り、消防訓練を実施する際には、原則として管轄する消防署へ所定の書式および所定の方法で事前届出が必要です。自治体によっては、消防訓練実施前ではなく実施後に届出が必要なケースや、実施前に加えて実施後にも届け出が必要なケースがありますので、詳細は管轄消防署のホームページをご確認ください。また、届出手段は郵送や窓口での手続きのほか、WEBで簡単に申請できる自治体もあります。
消防訓練実施日をお知らせし、参加者を募る
消防訓練の実施案内を作成し、概ね1か月前に掲示板への掲示やポスト投函を行います。案内文書には、実施日時、集合場所、訓練内容などを記載します。集合に際して「エレベーターを使用せず、避難階段を利用して集合場所に集まる」ことを指示することが重要です。安全な場所にエレベーターを使用せずに集合すること自体が避難訓練となります。また、雨天決行である旨も記載することをお勧めします。
消防訓練を実施する
「避難・通報・消火」の3訓練を具体的にどのように実施すればいいかについては、「消防訓練の実践ガイド:避難・通報・消火のポイントを解説」というコラムに詳しく書いてありますので参考にしてください。東京消防庁をはじめとする各消防署が訓練の参考となるYouTube動画を公開しており、映像で確認できるため、非常にわかりやすく参考になります。加えて、集合せずに実施できる新たな消防訓練の方法として、WEB上で消防訓練を実施できる仕組みを構築している自治体もあります。参考として、東京消防庁のURLを紹介します。
《参考》東京消防庁 ネットで消防訓練
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jiei_shoubou/about.html
このように、消防訓練は定められた訓練を実施するだけでなく、建物利用者へのアナウンスや消防署への届出など、事前の準備が必要となります。せっかく実施しても消防署に届け出なければ、防火管理を積極的に実施している防火対象物として認められない可能性があります。一般的には、防火管理者を中心に消防訓練を実施することが多いですが、防災センターが備わっているビルでない限り、運営者が防火(防災)管理を専門としているとは限りません。日常の仕事や家事が忙しい中で、防火管理者がこれらの準備をすべて整えることは容易ではありません。
当社では、防火管理者が消防訓練以外の防火管理者に必要な業務を実施していることを条件に、消防訓練のサポートをするサービスを提供しています。ぜひとも一度ご検討ください。