統括防火管理者が必要とされる建物とその責任について
高層建築物(高さ31m超の建築物)やその他政令で定める防火対象物で、その管理について権原が分かれている場合、統括防火管理者を選任する必要が生じます。統括防火管理者はいわば防火管理者のリーダーのような存在で、防火対象物全体についての防火管理上必要な業務を行わなければなりません。
例えば、管理権原が分かれている防火対象物の中で、飲食店や物販店のような不特定多数の人の出入りがある(特定用途)店舗が入居するビルでは、地階を除く階数が3階以上で、かつ収容人員が30人以上の場合、統括防火管理者が必要です。さらに、複数の会社が入居する(特定用途を含まない)複合ビルでは、地階を除く階数が5階以上で、かつ収容人員が50人以上である場合に統括防火管理者が必要とされます。また、共同住宅でも、31mを超える高層マンションである場合にも統括防火管理者を必要となることがありますが、これは共同住宅の管理について権原が分かれているものとして扱われるためです。
《出典》東京消防庁 統括防火・防災管理制度について
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/p09.html
統括防火管理者が選任されている建物に入居するテナントに防火管理者が選任されないまま、テナント内の防火管理上の不手際で火災が発生した場合、テナントの管理権原者(テナントのオーナー)の責任が問われる可能性は否定できませんが、一方で、統括防火管理者と建物オーナーの責任も問われることになるのでしょうか。
先日、当社が統括防火管理者に選任されている複合ビルの建物オーナーから、新たに入居したテナントが防火管理者の選任をしない場合、その責任が建物オーナーに及ぶかどうかについての質問があり、改めて管轄消防署の予防課に確認を行いました。
先に結論から言えば、全体の消防計画で管理権原を分けている場合、建物のオーナーや統括防火管理者がテナントに対して「防火管理者の選任を促す義務」を果たしていることを前提に、防火管理者が選任されていないテナント専有部で火災が発生した場合は、テナントの責任とされます。また、建物のオーナーと統括防火管理者が共用部の管理において適切な防火管理を実施していれば、問題はない旨の回答が得られました。お忙しい中、丁寧にご回答いただき、誠にありがとうございます。以下は、そのやりとりをした際のメールです。
当社から消防署への質問メール(一部抜粋)
統括防火管理者に選任されている建物に新たなテナントが入居し、このテナントに防火管理者が選任されないまま、テナント内の不手際で火災が発生した場合の統括防火管理者と建物の管理権原者の責任についてご教示ください。
統括防火管理者に選任されている建物に、新たなテナントが入居した場合、建物の管理権原者を通じて防火管理者の選任および消防計画の作成・届出を行うよう依頼しています。また、やむなき事情で防火管理者の選任が難しい場合、管轄の消防署に認めていただくことを条件に、テナントの防火管理者を当社が受託することができる旨もお伝えするようにしています。
しかしながら、実際に入居するテナントが、防火管理者を選任して消防計画の作成・届出をしているかどうかの確認は容易ではなく、消防査察があった際の指摘事項で判明するケースもあります。該当のテナントを訪問しても、防火管理に係る事項について把握している従業員がいないということが常で、防火管理者の選任の重要性をお知らせする手紙を渡しても無反応というケースも少なくありません。
一方で、必要とされる回数の消防訓練および各テナントへの消防訓練参加の呼びかけは確実に実施しており、日常の防火管理においても、テナントのものと判断される残置物が共用部(避難経路)に影響を及ぼしている場合は、口頭注意や警告文を貼る等の行動をとっています。
さらには、その活動の証跡として、防火管理に特化した点検等の報告書を月1回以上作成して、建物の管理権原者と共有して改善に向けた行動をとっています。
このように、建物全体(共用部)の防火管理に努め、テナントの防火管理について注意喚起を行い、テナントの防火管理者の選任をお願いしていても、実際には選任されないままのテナントが存在するケースがあります。万一、この防火管理者未選任のテナントから火災が発生した場合、統括防火管理者および建物の管理権原者は、その責務の不十分さを追求されてしまうのものでしょうか。
テナントの管理権原者の責任は理解していますが、統括防火管理者と建物の管理権原者、各々の責務について、正しく理解をしたいため、ご教示いただけると幸いです。
消防署から当社への回答メール(一部抜粋)
質問内容について回答させていただきます。
まず始めに、統括防火管理者の責務については下記のとおりとなります。(長文になるため一部抜粋)
消防法施行令第4条の二
「統括防火管理者は、前項の消防計画に基づいて…防火管理上必要な業務を行わなければならない。」
「統括防火管理者は、防火対象物の全体について…権限を有する者の指示を求め、誠実にその職務を遂行しなければならない。」
上記のとおり、統括防火管理者は、各管理権原者からの協議により選任されるため、その責務もそれに基づくものとなっております。
また、防火対象物内において責任の所在を明確にするため、全体の消防計画にて権原の範囲を定めることになっており、テナント占有部分について全体の消防計画でテナントの権原と定めているのであればテナントの管理権原者の責務になります。(統括防火管理者としてやるべきことは実施する必要がありますが)今回の場合、統括防火管理者の責務についてはやるべきことはやっているのではないかと思われます。
全体の消防計画にて定めた権原の範囲で示している建物所有者の権原になっている共用部分の物件存置等については、統括防火管理者として注意し、必要であれば管理権原者へ報告し指示を仰ぐ必要があります。
既に注意喚起等は実施していただいているようですので、管理権原者へその旨を報告をし指示通りに対策を実施していただければと思います。
ご質問のような状況でしたら、建物の管理権原者の責務については、権原の範囲内である共用部分について避難障害等のない状況を保っていただく必要があります。