プロの防火管理者が行う点検とは
防火管理者は選任されただけでは責務を果たせる資格ではありません。人命と財産を火災から守るため、防火管理の推進責任者としての防火管理者には果たすべき必要な責務が存在します。東京消防庁では、その責務を以下のように定めています。
- 《防火管理者の責務》(消防法施行令第3条の2一部抜粋)
- 「防火管理に係る消防計画」の作成・届出を行うこと
- 消火、通報及び避難の訓練を実施すること
- 消防用設備等の点検・整備を行うこと
- 火気の使用又は取扱いに関する監督を行うこと
- 避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理を行うこと
- 収容人員の管理を行うこと
- その他防火管理上必要な業務を行うこと
- 必要に応じて管理権原者に指示を求め、誠実に職務を遂行すること
《出典》東京消防庁 防火管理者とは https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/p03.html
この中で特に、「消防設備の点検」、「火気の使用又は取扱いに関する監督」、「避難又は防火管理上必要な構造及び設備の維持管理」については、実際の現場で点検を実施しなければ確認することができません。
当社が防火管理者業務を受託している物件に関しては、原則として月に一度、専門的な教育を受けた点検スタッフが現地に訪れ、防火管理に特化した点検を実施しています。この作業を「巡回防火点検」と称しています。
巡回防火点検を行う際には、担当者によって経験の差が影響しないよう、当社が独自に開発した専用システムを使用しています。このシステムは、スマートフォンを介して現地で操作が行われ、防火管理上の問題が発見された際には、即座に改善措置を講じ、その記録を残す仕様となっています。
例えば、階段に椅子やテーブルなどの私物が置かれて避難経路の利用に問題がある場合、私物を傷つけないよう養生テープを使用して警告文を掲示し、その状況をシステムに記録します。また、点検の実施や現場訪問の証拠として、点検時間や建物の外観の写真をシステムに登録し、これらのデータを基に自動で作成される報告書を、最終確認後に毎月お客様へ提供しています。
当社の巡回防火点検システムの最大の特徴は、点検担当者の経験の有無に関わらずガイドに従って操作することで、防火管理に特化した点検が実施できること、そしてその結果を報告書として自動生成できることです。これにより、防火管理者としての業務遂行の証跡を効果的に残すことが可能となります。
防火管理者として自ら点検を実施するには
巡回防火点検を自ら実施するには、次の5つのポイントを把握する必要があります。
- 避難経路の障害となる私物などの残置がないかを確認する。
- 火の元(放火)の原因となり得る状態になっていないかを確認する。
- 消防設備が正常に稼働できる状態かを確認する。
- 防火管理上不適切な状態を確認した際には、警告などの措置を講じ、その都度管理権原者に連携をとる。
- これらの活動を報告書などにまとめ、防火管理者としての活動証跡とする。
これら、各ポイントについて説明します。
避難経路の障害となる私物などの残置がないか
避難経路に障害物があるかどうかの確認は非常に重要です。2001年に発生した「歌舞伎町ビル火災」では、階段にテナントの私物が大量に放置され、さらにはそれらが燃えることで避難を困難にし、結果として44人の貴重な命が失われました。
当社が遭遇する避難障害の一例として、廊下に自転車が放置されているケースが頻繁にあります。これは盗難防止の意図があると思われますが、防火管理の観点から見ると、危険な状態であると言わざるを得ません。点検時には、大地震の後に火災が発生する可能性を考慮する必要があります。自転車は震災時に倒れる可能性が高いため、日常生活で通行可能なスペースが確保されていたとしても、それが問題であることに変わりはありません。
「いざという時にはどかせばいい」と考える方もいますが、すべての住人が健康であるとは限らず、車椅子を使用する方が居住している可能性もあります。避難経路は、建物を利用するすべての人のために確保されるべきです。
火の元(放火)の原因となり得る状態になっていないか
街に防犯カメラの設置が増え、10年前と比べて放火による出火が減少しています。しかし、「放火」と「放火の疑い」を合計した件数は、出火原因で1位の「たばこ」を上回り、現在でも圧倒的な1位となっています。
放火魔としては、燃えやすい物質がなければ火を放つ意味がありませんので、オートロック設備のない建物の共用部に燃えやすい私物やごみを放置しないことが重要です。例えば、寒い時期に毛布を入れたままのベビーカーを共用部に長時間放置する光景が時々見られますが、これには注意が必要です。放火を防ぐためには、「放火を防ぐために、今日からできる4つの方法」というコラムを参考にしてみてください。
消防設備が正常に稼働できる状態か
防火管理者が消防設備士などの専門資格とスキルを有していれば、消防設備の詳細な点検や整備を行うことができますが、実際は専門的な知識を有していないケースがほとんどだと思います。そのため、まずは消防設備の周囲に私物などが置かれていないか確認し、緊急時にすぐに使用できる状態にあるかをチェックすることが重要です。
消火器に関しては、安全栓と呼ばれる黄色のピンに外れた形跡がないか、指示圧力計と呼ばれる消火器内部の圧力を示す値に異常がないか、本体に凹みなどの異常がないかなどを確認します。詳しくは、「防火管理者の役割としてチェックしたい消火器の不備」というコラムでも紹介していますので、参考にしてください。
また、特に注意が必要な消防設備は、火災時に他のフロアへの炎や煙の流入を防ぐ役割を果たす防火戸です。この防火戸の周りに私物が置かれていないか、また防火戸自体がストッパーで固定されていないかなど、火災時の閉鎖動作に支障がないかを確認する必要があります。
火災で最も危険とされるのは「煙」と言われ、防火戸が機能しなければ、煙が上階のフロアに充満し、多くの命が危険にさらされます。詳しくは、「新宿・歌舞伎町ビル火災から学ぶ防火戸の役割」というコラムをご覧ください。
防火管理上不適切な状態を確認した際に、警告等の行動をとる
防火管理上不適切な状態を確認した場合、直ちに改善に向けた行動を取ることが非常に重要です。消火器が破損しているなど、消防設備に異常が見つかった際は、管理権原者(防火管理上の最高責任者)である建物オーナーなどに交換や修理の必要性を伝え、改善を促すことが求められます。また、避難経路である廊下や階段に私物が置かれ、避難を妨げる場合には、私物の持ち主が特定できれば直接指導を行い、持ち主が不明か不在の場合は警告文の掲示が効果的です。さらに、避難路が完全に塞がれているなど、非常に危険な状態の場合には、管理権原者と協力して、直ちに改善措置を講じる必要があります。このテーマに関しては、「消防署の査察(立入検査)の指摘を短期間で解消させた方法とは」というコラムを書いていますので、詳細はそちらをご参照ください。
防火管理者の活動の証跡を記録する
防火管理に尽力していても、放火のリスクがない建物は存在しないため、人的被害を伴う火災事故が発生する可能性を完全に否定することはできません。万一火災事故が発生した場合、防火管理者や管理権原者がどのように防火管理に尽力していたかを証明するためには、日常の防火管理活動を記録した報告書の存在が不可欠です。
防火管理者としての活動を報告書にまとめることは容易ではないかもしれませんが、管理権原者や防火管理者の責任が問われた場合の刑事罰のリスクを考慮すると、防火管理活動を行うたびにその内容を報告書に記録する手間を惜しむ選択肢はありません。
防火管理者の外部委託という選択
防火管理者の責務の一つとして、防火管理に特化した点検の重要性について解説しました。これが特殊な技術やノウハウがなければ実施できないものではないことをご理解いただけたかと思います。一方、防火管理で不適切な状態を確認した際、その改善のために行動を起こし、都度記録を残すことが、忙しい日常や本業との兼ね合いで重荷に感じる人も多いでしょう。また、消防訓練を実施することも防火管理者の重要な責務の一つですが、実際に建物利用者への声掛けや訓練の進め方について不明な点が多いという声を多くいただいています。
これらの問題を解決する一つの手段として、防火管理の専門家に業務を委託する選択肢があります。当社は、消防計画の作成から点検、消防訓練、消防査察対応まで、防火管理者に必要な全ての業務を包括する外部委託サービスを提供しています。