防火管理業務の怠慢には、厳しい罰則が待ち受ける
消防査察(立入検査)でよく指摘される問題の一つに、防火管理者が選任されていないことがあります。この問題は特に、ビル内の店舗(テナント)で多く見られ、中には避難が難しくなる3階以上にある店舗も含まれています。
防火管理者が選任されていないということは、防火管理者の選任届出が行われておらず、消防計画も立てられていないことを意味します。これは、実際に防火管理の実務が行われていない状態と言っても過言ではありません。防火管理者が必要な店舗では、その管理権原者(店舗のオーナー等)の責任が問われます。特に、お客様を迎える商売をしている店舗では、初めてその店舗やビルを利用する人も含まれるため、火災が発生した際のスムーズな避難が疑問視されます。また、防火管理に対する意識の低さから、初期消火に効果的な消火器の使い方を知らない人も多いでしょう。
さらには、防火対象物点検のように法令で必要とされる点検を実施していない場合や、防火管理者を名目上だけ選任し、実際には防火管理を行っていない場合にも注意が必要です。実際に火災が発生し、被害者が出た場合、人命を守るための努力を怠ったとして罪に問われるリスクは高いと言えます。
防火管理の最高責任者である管理権原者の責任を具体的に確認するために、消防法における管理権原者の義務とそれに対する罰則を示します。
防火管理者の選任命令:6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金
消防長または消防署長は、防火管理者が定められていないと認める場合には、管理権原者に対し、防火管理者を定めるべきことを命ずることができる(法第8条第3項)。防火管理者の選任命令に違反した場合、違反者たる管理権原者は、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される(法第42条第1項第1号)。また、この罪を犯した者に対しては、情状により懲役及び罰金が併科されることがある(法第42条第2項)。
防火管理者の選任・解任の届出義務:30万円以下の罰金又は拘留
管理権原者は、防火管理者を定めたとき、又は、解任したときは遅滞なく所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない(法第8条第2項)。防火管理者を定めたとき又は解任したときの届出を怠った者は30万円以下の罰金又は拘留が科される(法第44条第8号)。
防火対象物の点検及び報告を実施させること:30万円以下の罰金又は拘留
法第8条第1項の防火対象物のうち火災予防上必要があるものとして政令第4条の2の2で定めるものの管理権原者は、防火対象物点検資格者に点検対象事項が点検基準に適合しているかどうかを点検させ、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない(法第8条の2の2第1項)。この報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、30万円以下の罰金又は拘留に処せられる(法第44条第11号)。
防火管理者に防火管理業務を実施させること:1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
消防長又は消防署長は、防火管理業務が法令の規定又は法第8条第1項の消防計画に従って行われていないと認める場合には、管理権原者に対し、防火管理業務が法令の規定又は消防計画に従って行われるように必要な措置を講ずべきことを命ずることができる(法第8条第4項)。
防火管理業務適正執行命令に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処される(法第41条第1項第2号)。
この罪を犯した者は、情状により懲役及び罰金が併科されることがあり(法第41以上第2項)、また両罰規定が定められている(法第45条第3号)。
《参考》e-Gov法令探索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC1000000186
これらの罰則は、消防機関から管理権原者と判断された者にのみ適用され、また、措置命令を受けることになります。しかしながら、実際に火災が発生した際に、防火管理上の不手際が原因で人を死傷させ、業務上過失致死傷罪に問われる場合は、管理権原者のみならず防火管理者、統括防火管理者、防火管理技能者等も業務上過失致死罪に問われる可能性があるため注意が必要です。