歌舞伎町ビル火災とは
44人もの尊い命が奪われた歌舞伎町ビル火災。消防法が大きく改正するきっかけになったこの事件_。
20年以上前に発生した新宿の小さな雑居ビルで起きた火災が、なぜ、これほどまでに被害を拡大することになったのか、当時を振り返ってみましょう。
事件概要
- 2001年9月1日 東京都新宿区歌舞伎町の雑居ビルで起きた火災
- 44人が死亡し、3人が負傷
- 出火原因は放火とみられているが、2022年8月現在も未確定
- 多くの死者を出した原因は、避難通路の確保が不十分であったため
- ビルオーナーやテナント関係者に執行猶予付きの有罪判決が下り、消防法の改正につながる
ずさんな防火管理
- ひとつしかない避難階段にゴミ袋や衣装ケース、ビールケースなど、ほぼ隙間なく置かれていた
- ゴミや私物が障害となり、階段に設置された「防火戸」が機能しなかった
- 自動火災報知設備は誤作動が多いため電源を切られていた
- 防火管理者の選任および消防計画作成が徹底されていなかった
44人の死因はいずれも急性の一酸化炭素中毒によるものでした。一酸化炭素中毒というのは火災時に発生した煙(一酸化炭素)を吸い込むことで、血液中の酸素が非常に少なくなってしまう、極めて緊急性の高い危険な中毒のことです。
この危険極まる「火災時の煙」が出火地点の3階エレベーター前から、一瞬にして建物全体へ広がってしまったのは、ゴミ等が散乱して「防火戸(ぼうかど)が機能しなかった」ことに起因します。
防火戸(防火扉・防火シャッター)の役割
防火戸は、防火扉や防火シャッターとも呼ばれる消防設備で、通常は人の通行が可能であるものの、火災時には炎や煙の広がりを防止するように設計されています。他のエリアへの燃え広がりを食い止め、避難路を確保する役割を果たす防火戸は、火災被害の防止に極めて重要な設備といえます。
防火戸の種類
防火戸には、「常時閉鎖型防火戸」「随時閉鎖型防火戸」の2種類があります。
「常時閉鎖型防火戸」は、人の意思をもって開放しない限り常に閉鎖される形式の扉で、扉を大きく開いてもロックされずに必ず閉まるように設計されています。安価のため共同住宅や雑居ビルの内階段等で多く使用されています。
「随時閉鎖型防火戸」は、火災を感知すると閉鎖される形式の扉で、鉄扉がスイングして閉じられるものと、上部からシャッターが下りて閉鎖されるものが多く見られます。
火災の煙の恐怖
防火戸は火災の時に「閉鎖」していることが重要で、この機能が果たせないと、炎や煙が他のフロアに広がり被害を拡大させます。
煙が広がるスピードは、垂直方向で毎秒約3~5mで、水平方向へは毎秒約0.5~1mといわれており、階段などの垂直方向では人が逃げる速度より煙が上昇するスピードの方が速く、完全に巻き込まれることになります。特に、内階段が1つしかない、いわゆる雑居ビルといわれる不特定多数の人が出入りする建物では、『防火戸が機能しない=避難路が断たれる』ことを意味するので注意が必要です。

日常の防火戸の管理
巡回防火点検をすると、コロナ対策(換気目的)としてストッパーで防火戸を止めているケースが散見されます。気持ちは理解できますがNGです。どんなに防火管理をしっかりやっている建物でも、放火のリスクは必ずあります。
「京都アニメーション放火殺人事件(※1)」や「北新地ビル火災(※2)」のように、ガソリンのような揮発性の高い可燃物を用いて放火をされた場合、とうてい防火戸を閉める余裕など無く、炎と煙は一気に建物全体へ広がることとなり、多くの人命が失われる可能性が出てきます。
なお、共同住宅(マンション)の玄関ドアもストッパーがなく、常に開放することができないつくりになっていますが、建築基準法に基づく防火設備で「防火戸」としての役割があるからです。そのため、「風通しを良くするために常に開放したい」という要望を管理会社に言っても断られることになります。
(※1)京都アニメーション放火殺人事件(京アニ事件)
2019年7月18日に京都府京都市で発生した放火殺人事件。アニメ制作会社「京都アニメーション」の第1スタジオに男が侵入し、1階にバケツからガソリンを撒いて放火したことで、スタジオは全焼、社員36人が死亡、33人が重軽傷と、未曽有の大惨事となった。
(※2)北新地ビル火災
2021年12月17日に大阪府大阪市の通称「北新地」にある雑居ビルの4階クリニックで発生した放火事件。クリニックに通院していたと思われる男が、持参した2つの紙袋を蹴り倒し、流れ出た液体にライターのようなもので点火したことで、被疑者を含む27人が死亡、1人が負傷した。
