朝日新聞から取材!防火設備の改修費補助制度が広まらない理由とは?

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避難階段1つの危険性~特定一階段等防火対象物の現状と課題

防火管理者のこづっきです。

先日、朝日新聞社から取材を受けました。取材内容は、火災発生時に多くの死傷者を出す可能性が高い特定一階段等防火対象物(以下「特一」)についてです。国土交通省が、特一の防火設備改修費を国や自治体が補助する制度を設けたにもかかわらず、これまでに改修が行われたのは大阪市と京都市のわずか2棟のみという現状について、制度の利用が広がらない理由を問われました。

この制度が設けられるきっかけとなったのは、2021年12月17日に大阪市北区北新地で発生した心療内科クリニックの放火事件です。この事件では、容疑者がクリニック内でガソリンを撒き、火を放ったことで、建物内にいた多くの人が逃げ遅れ、27人が死亡、1人が重傷を負うという痛ましい結果となりました。この事件によって、特一の建物が抱える避難の難しさが浮き彫りとなりました。

特一とは、一言で言えば、屋内階段が1つしかないため避難経路が限られている建物を指します。例えば、避難階以外のフロアにクリニックや飲食店など、不特定多数の人が利用する店舗が入居している雑居ビルが該当します。このような建物では、火災が発生した際に煙や火の影響を受けやすく、迅速な避難が非常に困難になるリスクがあります。

こうした背景を踏まえ、国土交通省は2023年4月に防火設備の改修費を国や自治体が補助する制度を設けましたが、この制度が広く利用されているとは言えないのが現状のようです。

なお、北新地で発生した放火事件については、「防火対象物点検の履行はオーナーの責務~大阪・北新地の雑居ビル放火殺人から学ぶ」というコラムでも詳しく取り上げていますので、ぜひ参考にご覧ください。

特一とは、一言で説明すれば、屋内階段が1つしかなく、避難経路が限られている建物を指します

当社が考える「特一の防火設備改修費を国や自治体が補助する制度が広く利用されていない理由」は以下の通りです。

  1. 特一に関する認知不足
    特一がどのような建物を指し、火災発生時にどのような危険性があるのかが、一般に十分認知されていない。多くの人が「特一」という言葉自体を知らず、問題意識を持つきっかけを得られていない現状があります。
  2. 火災の危険性を「自分事」として捉えられない
    火災事故は日常的に発生していますが、震災のように被害が広域で目に見えやすい災害とは異なり、被害が限定的であるため、多くの人が「自分には関係ない」と考えがちです。その結果、防火対策や建物改修に対する関心が低いままになっています。
  3. 改修を行わないことへのペナルティがない
    改修を行わない場合の罰則がなく、さらに改修を行った建物オーナーに火災保険料の割引や税制優遇といった実質的なメリットがないため、積極的に制度を活用しようとする動機づけに欠けています。
  4. 改修作業の手間
    改修に店舗専有部が含まれる場合、各店舗との調整が煩雑で手間がかかることが大きなハードルとなっています。特にテナントの営業時間がばらばらの雑居ビルでは調整が進まないケースが多く見受けられます。

当社では、特一に必要とされる「防火対象物定期点検サービス」を提供していますが、問い合わせをいただく多くのお客様は消防査察(立入検査)で防火対象物点検の未実施を指摘され、「よく分からないが必要な点検を実施するよう指導された」という状況で相談に来られることが多いです。このことからも、特一についての認知が一般に広がっていないことが分かります。

こうした現状を踏まえ、特一に関する情報を広く周知することが不可欠だと考えます。この周知活動は、マスコミや消防サービスを展開する当社が積極的に取り組むべき課題ですが、自治体や国としても、この問題に対するより強い意識を持ち、広報活動を展開していく必要があります。

さらに、補助制度を効果的に利用してもらうためには、改修を行う建物オーナーに具体的なメリットを示すことが有効ではないかと考えます。たとえば、火災保険料の割引や税制優遇といったインセンティブを提供することで、建物オーナーの意識を高めることが期待されます。現状では、特一に該当する建物の防火設備が古く更新の必要がある場合、補助金制度を活用すれば、コストを抑えながら安全性を高めることが可能です。しかし、それを実現するためには、自治体による啓発活動の強化や手続きの簡素化が必要と考えます。

■参考
朝日新聞デジタル
「特一」3万棟、改修2棟のみ 26人犠牲のクリニック放火から3年
https://www.asahi.com/articles/ASSDJ24TWSDJPTIL004M.html

特定1階段等防火対象物(特一)とはどのような建物か

特一とは消防法に基づき防火管理者の選任が義務付けられている特定用途防火対象物(飲食店、物販店、診療所など不特定多数の人が利用する建物)の中で、以下の条件を満たす建物を指します。

  • 収容人員が30人以上300人未満
  • 地階または3階以上の階に特定用途のテナントが入居
  • 屋内に避難階段が1箇所しかない

具体的には、駅周辺に林立するクリニックや飲食店が入居する雑居ビルが該当します。これらの建物は、火災が発生した場合に避難経路が限られるため、迅速な避難が難しく、特別な防火対策が必要です。

特一が他の建物と大きく異なる点は、防火対象物点検の実施とその結果を消防署へ届け出る義務があることです。この仕組みを防火対象物点検報告制度と呼びますが、この点検は、半年に1度実施される消防設備点検とは異なり、防火管理体勢などを確認する点検です。防火管理や消防法に関する専門知識を持つ防火対象物点検資格者が年1回点検を行い、建物全体および各テナントの防火管理が適切に実施されているかを確認します。

具体的には、防火管理者が選任され、消防計画が適切に届け出られているか、暖房器具の近くに燃えやすいものが置かれるなど火災の原因となり得る状況がないか、避難通路が確保され適切に管理されているか、自衛消防訓練が実施されているかといった点を点検します。例えば、避難通路に私物が置かれている場合、火災時に命に関わる重大な危険が生じる可能性があります。そのため、これらの項目を定期的に確認し、問題を未然に防ぐことが重要です。

この制度が誕生した背景には、2001年に発生し、44名もの尊い命が失われた「歌舞伎町ビル火災」があります。この火災は4階にある飲食店から発生しましたが、唯一の避難経路である屋内階段が私物で塞がれ、防火戸も適切に機能していませんでした。その結果、発生した煙が階段を通じて他のフロアに広がり、一酸化炭素中毒が原因で命を落とすという悲惨な事態となりました。この建物は、まさに特一に該当する建物だったのです。

もしこのビルで防火管理者が適切に選任され、消防訓練の実施や避難経路の確保や防火設備の維持が徹底されていれば、被害を最小限に抑えられた可能性があります。この火災は、特一に該当する建物での防火管理の重要性を強く訴える契機となり、防火対象物点検報告制度の必要性を世に示しました。

歌舞伎町ビル火災から20年以上が経過しましたが、火災は現在も日常的に発生しています。特一に該当する建物では、建物オーナーやテナントの防火意識の向上、定期点検の実施、避難訓練の徹底が求められています。防火管理は単なる法的義務ではなく、利用者や住民の命を守るための責務であり、日頃から防火意識を高め、点検や訓練を通じて安全な環境を維持することが不可欠です。

建物の安全性を確保し、悲劇を繰り返さないために、特一の防火管理に関わるすべての人が一丸となって取り組む必要があります。

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