防火管理者の業務委託の提供が難しい理由とは
お客様から「防火管理者の業務委託において、他社との差別化はどのようにしていますか?」とご質問をいただくことがあります。当社は2014年7月に防火管理業務に特化したウェブサイトを開設し、それ以来、この事業を継続してきました。現在では、全国で1,500件を超える物件の防火管理を担当しており、これほど多くの物件を手がけている会社は他にはないのではないかと考えています。
特別な差別化戦略を意識しているわけではありませんが、防火管理者の外部委託サービスに競合が少ない理由の一つは、防火管理業務が非常に手間のかかる作業であることが挙げられます。防火管理自体は高度な専門知識を必要とするものではなく、防火管理者の資格を持ち、熱意と時間のある方であれば誰でも行うことができます。しかしながら、これを事業として全国規模で展開するには、各地域ごとの消防署の判断基準が異なるため、非常に複雑な対応が求められます。そのため、大規模な企業であっても、この分野への参入が難しいのではないかと考えています。
例えば、防火管理者の外部委託が可能かどうかの基準一つをとっても、ある地域では点検スタッフが現地に常駐していれば隣県の防火管理者が認められることもありますが、同じ市内でなければ認めない地域もあります。また、消防計画の書式や提出方法も自治体ごとに異なり、電子申請が可能なところもあれば、窓口での提出しか受け付けない地域もあります。さらに、消防訓練に関しても、事前の届出が必要な地域もあれば、訓練後の報告のみで済む地域もあり、このような違いが業務の標準化を困難にしています。
令和元年の消防白書によると、全国には726の消防本部と1,719の消防署があります。1,719通りとは言いませんが、それぞれの消防署、さらには担当者によって判断基準が異なるため、全国一律のサービスを提供するのは容易ではありません。しかし、当社は多くのお客様に支えられた経験から、地域ごとの条件に応じた柔軟な対応を行い、それが結果的に他社との差別化につながっていると考えています。前述の通り、消防署によって判断基準が異なるため、全国どこでも受託できると言い切ることはできませんが、地域の特性に合わせたきめ細やかな対応を通じて、全国の「防火管理者が不足している」という課題に応え続けていきたいと考えています。
防火管理者は「定期的な点検」が必須!
防火管理者の業務は選任されたらそれで終わりではありません。法令上、防火管理者の責務として以下が定めれています。
《防火管理者の責務》(消防法施行令第3条の2一部抜粋)
- 「防火管理に係る消防計画」の作成・届出
- 消火、通報及び避難の訓練を実施
- 消防用設備等の点検・整備
- 火気の使用又は取扱いに関する監督
- 避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理
- 収容人員の管理
- その他防火管理上必要な業務
- 必要に応じて管理権原者に指示を求め、誠実に職務を遂行する
《出典》東京消防庁 防火管理者とは
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/p03.html
防火管理者に必要な責務を大きく3つに分類すると、次のようにまとめられます。
- 消防計画の作成・届出
- 消防訓練の実施
- 日常の防火管理業務
この中でも特に「日常の防火管理業務」が、防火管理者の業務委託を考える際の重要なポイントとなります。
消防設備点検は、原則として有資格者による定期的な点検実施が法令で義務付けられていますが、「日常の防火管理業務」に関しては、具体的な点検頻度や方法が定められていません。しかし、何もしなくて良いわけではありません。特に、「消防用設備等の点検・整備」「火気の使用や取扱いに関する監督」「避難に必要な構造や設備の維持管理」に関しては、実際に現地を訪れて点検を行わなければ、適切に実施できない業務です。
当社では、「日常の防火管理業務」を果たすため、原則として月1回、専門のスタッフが物件を訪れ、防火管理に特化した点検を実施しています。点検の際、防火管理上の問題が見つかれば即座に対応します。例えば、避難経路である廊下が私物で塞がれている場合には、撤去の指導を行い、消防設備に不具合があれば管理権原者に報告し、改善を促します。これらの防火管理活動は事前に消防計画に記載し、毎月の履行を徹底しています。また、点検ごとに報告書を作成し、万が一火災が発生した場合には、防火管理業務が適切に行われていた証拠として、消防や警察に説明することで管理権原者を守ることができます。
この点検業務は、現地での確認が必須であり、AI技術がどれほど進歩しても自動化することはできません。防火管理に特化した点検は人命に関わる重要な業務であるため、当社では研修を受けた、適切な知識を持ったスタッフが毎月実施しています。そのため、一時的な人材補充を目的としたマッチングアプリ等では点検業務を代替することが難しく、加えて人手不足の現状もあり、スタッフの確保は容易ではありません。
ただし、点検に専門資格が必要というわけではありません。例えば、消防設備の点検は現地での試験ではなく、主に目視による確認作業が中心です。異常が発見された場合には、管理権原者に報告し、適切な対応を依頼します。そのため、当社の防火管理者外部委託サービスで実施する「日常の防火管理業務」は、他社がまねできないほどの専門業務というわけではありません。ただ、各消防署の対応や、定期的に現地に赴かなければならないという性質上、人の手を必要とする業務であるため、他社には実行が難しい部分があるのかもしれません。
それでも、時代は常に変化しており、昨日の常識が通用しなくなることもあります。そのため、当社も絶えず業務を改善・バージョンアップしながら進めていきます。