消防違反の「公表制度」をご存じでしょうか
全国の消防署で査察(立入検査)が活発に実施されています。この査察により消防設備の不備や防火管理者の未選任などの法令違反が確認された場合、管理権原者(建物オーナー等)は、直ちに是正措置を講じなければならず、同時に消防署への報告書の提出も義務付けられています。しかし、査察によって法令違反が一度は是正されても、その後違反が繰り返される例が多く見受けられるのが現状です。このような実態は、防火管理の最高責任者である管理権原者の防火意識の低さが主な原因と言えます。
必要な消防設備の設置や防火管理者の選任を怠るような、防火管理に全く関心がない建物には、繁華街にある雑居ビルのように不特定多数の人々が出入りする場所が多く含まれています。このような違反物件を利用する者にとって、万が一火災が発生した場合、自身の安全が保証されるかは不明です。そのため、利用者が自ら建物の安全情報を入手し、必要に応じて利用を控えるなどの判断を下せるように、査察で把握された違反事項を公表する制度が各自治体の条例で定められています。
東京消防庁管内の公表制度を例に具体的に説明します。違反物件が最終的にホームページ等で公表されるには「2つのパターン」があり、どちらの場合も、違反内容を関係者に通知した後、一定期間が経過しても同じ違反が再び認められた場合に、建物名等を公表しています。
パターン1:消防設備等の未設置による設置義務違反(条則第25条の3第2項第1号)
屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、または自動火災報知設備の未設置による設置義務違反
【公表までの流れ】
- 消防査察後、上記の消防設備の未設置が確認された立入検査通知書が発行される。
- 通知の翌日から14日経過しても違反が続いている場合、東京消防庁のホームページで公表され、同時に東京消防庁本部や管轄消防署の窓口で閲覧可能となる。
パターン2:繰り返し違反(条則第25条の3第2項第2号)
防火管理者の選任義務がある防火対象物のうち、政令別表第一2項(風俗店・カラオケボックス等)、3項(飲食店等)または16項イ(不特定多数の者の出入りがある複合用途建物)における、同一の関係者による防火管理または消防用設備等の維持管理等の繰り返し違反
【公表までの流れ】
- 消防査察後、2つ以上の違反が確認された立入検査通知書が発行される。
- 前回の査察から3年以内に実施された査察において、2つ以上の違反(前回と異なる違反も含まれる)が確認された立入検査通知書が発行される。
- 通知の翌日から2ヶ月経過しても違反が続いている場合、東京消防庁のホームページで公表され、同時に東京消防庁本部や管轄消防署の窓口で閲覧可能となる。
《参考1》総務省消防庁の違反対象物公表制度について https://www.fdma.go.jp/relocation/publication/
《参考2》東京消防庁の違反物件公表制度について https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/kk/ihan/index.html
東京消防庁が公表している違反物件を確認すると、消防設備の未設置、防火対象物点検の未実施、防火管理者の未選任、自衛消防訓練の未実施など、防火管理上の不備が多く挙げられ、建物名と住所が明記されています。このような危険な建物を利用したいと考える方はいないでしょう。
そして、最も注意すべき点は、不十分な防火管理が指摘された状態で重大な火災事故が発生した場合、管理権原者である建物オーナーのリスクは計り知れないということです。
2001年に発生した歌舞伎町ビル火災では、防火管理者の未選任、火災報知設備の不整備、避難経路である内階段に私物が溢れ、防火戸の機能を妨げるなどの不手際が原因で44名の尊い命が失われました。この事故で、建物や店舗の防火管理の責任者は業務上過失致死罪で起訴されることになり、例として、建物の責任者には禁固3年、執行猶予5年の実刑判決が下されました。
自分の建物で火災が起こらないと考える方もいるかもしれませんが、総務省消防庁が公表した令和4年度の消防白書を見ると、令和3年中の全国での火災件数は35,222件にのぼり、1日あたりでは平均96件が発生していることがわかります。放火や自殺を除く死者数は1,143人に達し、負傷者を合わせると年間で6,000人以上になるのが実情です。
《出典》総務省消防庁令和4年版消防白書 https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r4/65826.html
防火管理の最高責任者である管理権原者には、人命を守るという重大な責任があります。「あの時、なぜ」と後悔する前に、今すぐに行動を起こしましょう。